写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

回復力

2021年01月07日 | 季節・自然・植物

 暮れも押し詰まったころ、毎年のことながら奥さんが鉢に入ったピンク色のシクラメンを買ってきた。適度な日当たりのある出窓に置き「水やりはお父さんにお願いしますね」と言う。

 その日から、私は水やり当番を任せられた。鉢の構造を観察すると「底面給水」のタイプである。鉢の表土から水やりをするのではなく、底面の受け皿に水を溜めておき、不織布を介して土に水をしみ込ませる根から水やりをするタイプである。

 年末の忙しい時でも、3日に1度くらいの頻度で給水をしてやると、毎日勢いよく上に向けて花を咲かせ、楽しませてくれていた。

 ところが今日の昼のことである。相変わらず、出窓には暖かい日が差している。ふとシクラメンの鉢に目をやると、あろうことか花を支えている茎は萎れて張りはなく大きく曲がり、花は鉢の外に出てぐったりと下を向いているではないか。

 「こりゃあいかん、しくじった」と思い、直ぐ皿一杯に水を注いでやった。ここ数日、雑用に追われて花を愛でる余裕がなく、水やりも疎かになっていた。「悪いことをしたな」とつぶやきながら、花を観察してみた。

 一番うな垂れている花は、鉢底から11cmあたりまで茎を折り曲げている。「果たして元気を取り戻してくれるものか」と思いながら、観察を続けた。萎れていた茎は生気を取り戻して、垂れていた花は1時間後には15cmに、3時間後には19cmに、5時間後には20cmとほぼ回復しているではないか。

 回復力を計算してみると、水をやってわずか1時間後には45%、3時間後には90%も回復していることが分かる。一見か弱さそうに見える可憐な花が、こんな短時間で回復していることに驚いた。

 人間は脱水症状を起こした後、こんなに早く回復できるとは思えない。小さな植物の回復力を見せつけられたからには、ちょっとしたことで直ぐに死んだふりなどせずに、このシクラメンにあやかって、この1年をしなやかに、したたかに過ごしたいと思っている。