写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

涼をもらう

2018年08月03日 | 生活・ニュース

 私が住んでいる地域は、国の天然記念物に指定されているシラサギの渡来地で、小川や田んぼの中で餌をあさっている姿を見ることがあった。真っ白い優美な姿は美しいが、このところ暑さのせいかあまり見かけることはない。

 そんな夕方、外出先から戻り玄関のドアを開けようとすると、足元に小さな陶器の植木鉢が置いてあり、背丈が40cmくらいの細い草花が植え込んである。6本ばかり茎が伸びていて、4本の先には米粒が3粒くらい集まったほどの小さな緑色のつぼみを付けたものがある。

 その一方、2本の茎には可憐といおうか、いかにも涼し気な真っ白い花が咲いている。「あっ、これ、サギ草という花よ」と奥さんが教えてくれた。どこの誰が置いていったのか、ピンとくるような人が直ぐには思いつかない。

 家の中に持って入ったとき、「あの人に違いない」と思い当たる人が浮かんだ。先日、裏の団地に向かって散歩をしているときに、同年配の男の人が庭の草花の手入れをしているところを通りかかった。

 立ち止まってしばらく草花の話を聞いた。そのとき「これはサギ草といって、8月にはサギが羽を広げたような真っ白いきれいな花を咲かせます。今度咲いたらあげましょう」と言われていた。

 こんなことがあったことをすっかり忘れていたが、花をつけた鉢を律儀に持ってきてくれていた。何度眺めてみても、純白のシラサギが羽を広げて舞っているようで、自然の造形の妙を見せてくれる。

 花言葉の「清純」「繊細」までは同感だが、「夢でもあなたを想う」とは、一体どんなところを見て付けられた花言葉だろう。涼しげな花を見ていると、しばし暑さを忘れさせてくれる一服の清涼剤に思えたが、夢で想うような人が、昔いたことがあったような、なかったような……。