まつたけ山復活させ隊運動ニュース

 松茸は奈良時代から珍重されてきたが、絶滅が心配される.松茸山づくりは里山復活の近道であり里山の再生は松茸復活に繋がる.

まつたけ十字軍運動NEWSLETTER233 号

2007年08月25日 |  マツタケの林地栽培 
市民によるアカマツ林の再生



マ ツ タ ケ 考―2―

シロの誕生とマツタケの発生
マツタケは、更に周囲の細根に感染を続け、やがてホットケーキ状のシロを土壌内部につくる.シロとは、マツタケが宿主の細根に感染することによってつくりだされる菌根やその周りの土壌とそこに生活する微生物を含む集合体でそれらの微妙なバランスのうえに成り立つ微少な生態系である.

物理的・化学的・生物的条件が適切に維持され続けると、シロはその容積がだんだん大きくなり、2次(核)菌糸がアカマツの細根に感染して約5年たつと、シロの容積は、マツタケの菌糸とアカマツの根や土を含めて1.5-2リットルほどになる.

すると、マツタケ子実体を1~2本発生するようになるが、微生物数の少ないマツタケ向きの痩地や乾燥気味の土壌は斜面や尾根の上部に多いため、マツタケはそのあたりから発生を始める.マツタケ発生の始まりはアカマツの樹齢が平均30年くらいである.地域によっては、それが40~50年になるケースもある.

シロ表面の温度が19℃(東北では18℃未満)を下回ると、マツタケのシロ表面に子実体原基が形成され、適当に雨があると(2-3日おきに10~20mm/日の降水)、「選ばれた」原基は生長を続け、7日~10日後に地表に顔を出す.地温が、12℃を下回ると、新たな子実体発生は少なくなる.

更に7~10日でヴェールが破れ、胞子が飛散する.胞子は、新たなシロ形成に重要な役割を担っている.このとき、地面を覆う腐植層があると、マツタケの胞子はそれにキャッチされ、褐色森林土壌中のアカマツ細根に出会えない.マツタケ山の長期の観察では、マツタケの新たなシロは、胞子が雨水などで流れ易い方向に並んで増えているように見える.

全山のシロ化とシロの崩壊
アカマツの樹齢の進行とともにシロ数が増え、また、シロ直径が大きくなる.マツタケ発生量が増加する.時には、一つのシロに400本のマツタケが生えることもある.壮齢林では100kg/ha以上の生産量が望める.また、アカマツ樹齢30年から70年の間に、40Kg/年の生産量が見込める.今は、そのようなアカマツ林は少ない.

マツタケと他の土壌微生物とのインタラクション(攻撃,協調、無関心など)は、場所や時間によって、その質は異なるが、マツタケのシロは痩地であり乾燥ぎみのマツタケが優占しうる諸条件が整っている場所へのみ広がっていく(6).

シロ数が増え、また、シロの先端が年々外側に10-15cmほど広がり大きくなるが、シロの内部は菌根がなくドーナツ状の形になる.やがて、マツタケのシロは重合する.重合すると瓢箪状、線状あるいは弧状にマツタケ子実体が発生するようになる.しかし、マツタケは土壌微生物との競争に弱いため、手を入れてない林では、途中で消滅するシロも多い.

ドーナツ状のシロの内部は、土壌がパサパサになり、細根が脱落した主根だけが残り、菌糸の残骸や死んだ細根由来のキチンとセルロースやヘミセルロースまたリグニン、タンニンが多い.それらは難分解物質のため、シロ内部の微生物社会はマツタケの発生してない土壌やシロ周辺部土壌のそれとも違っている.シロの内部には、アカマツの根も侵入せず、マツタケも生えない忌地 (sick soil)となる.

アカマツ林の更新
マツタケ発生後40年もすると、アカマツ林内にはマツタケの忌地面積が増える.また、アカマツの生長が鈍り、根の発達が悪くなるため、マツタケの発生量は落ちてくる.アカマツの生長を促したり,林の更新を考える時である.アカマツが常に生長するように、枝払いや芯止めを施して、100年生のアカマツ林でも、マツタケ発生量が落ちない手入れもある.

更新は、薪炭生産林をモデルとすると良い.マツタケ感染アカマツ樹(シロ)を一部残し皆伐する.アカマツ異齢林をつくる.最近では小型ユンボで地かきするところもある.あるいは、帯状に伐採区と非伐採区を設け、伐採区は地かきし、新たなアカマツ林を造成することを考える.このような作業では、マツタケが非常に若いアカマツ林で発生することがある.

マツタケの栽培
人類の活動によって、人里付近に登場したアカマツ林に、マツタケは発生を始め、毎日の生活のために里山林を大いに活用して、マツタケの生産量を高めていたことになる.

しかし、昨今は、森林の放置によってアカマツ林が衰退し、マツタケの生産量を落としている.マツタケは、人による森林の破壊によって生まれ、また、人による“森林”の放置による森林「破壊」によって、その生を終わろうとしているのかもしれない.

先述したように、昭和10年代、あるいは薪炭の生産量が減少を見せる昭和30年頃までは、意図的でなかったが、日本のアカマツ林で、人はマツタケを大量に「栽培」していたのである.
アカマツ林を放置し、山からマツタケを搾取するだけの時代は、もう終わっている.
まず、昭和30年代の健全なアカマツ林を取り戻す.その上で、マツタケやアカマツの生理や生態をよく理解し、マツタケを栽培する必要がある.

マツタケの栽培は、実は極めて容易なのである(長野県伊那市生産者談).昭和10年代には、日本のアカマツ林には蹴飛ばすほどにマツタケは生えていたことを思えば実にそうである.

オガクズ栽培と林地栽培                
マツタケの栽培法は2通りある.一つは、温度、湿度、照度など物理的要因や培養基の性質など化学的要因を制御した環境で、マツタケの胞子や培養菌糸を培養基に接種して、マツタケ子実体を得る方法である(狭義の人工栽培).

二つ目はアカマツ林をマツタケの生活しやすい環境に整え、アカマツ細根を増加させマツタケ子実体を得る方法である.マツタケ菌糸マットをアカマツの根に接種し、人為的に菌根を作ることも可能になった(化学と生物;2005年5月号).また、マツタケ感染アカマツ実生苗によるフィールド試験では、5年間にわたって菌根が維持されている.

前者の方法は、100~200回に1回くらいの割合で親指大のマツタケ子実体が得られることがある.なぜマツタケ子実体が得られたのか解明できてないので再現性を欠いている.

後者は、アカマツ林を健全に誘導する効果もある.全国的に森林の放置が進み森林機能の低下や生物多様性の保全上からも森林の現状を改善する必要を考えると、最も望ましいマツタケの栽培法である.
そう言う意味で,マツタケなど菌根性キノコのオガ粉栽培など考えるべきではない.

林地栽培の効果
 繰り返しになるが、昭和10年代は全国いたるところのアカマツ林に蹴飛ばすほどにマツタケは生えていたのである.

アカマツ林に適正な手入れを恒常的に施しさえすれば、マツタケ既発生林ではシロ数やマツタケ発生数の増加が見られる(単に昭和30年代のアカマツ林に戻すことである).その効果は100%である.岩泉まつたけ研究所向林試験林(1ha)では、1990年に発生環境整備を実施、32のシロを確認. 2005年現在(アカマツ平均樹齢:45年)で101のシロを有する.
 
岩泉町全体を見ると、5年毎の平均まつたけ流通量は、1.5t、2.3t、6.1t/年と増加し、1980年代の3倍強になっているが、2000年代になって、異常気象で不作が続いている.また、その価格は1万円から4万円/Kgと4倍に伸びている.岩泉まつたけのブランド化に成功している. 残念なことに、それは負の側面も持つ.昨今は、1kgのマツタケを25万円でも売らないという話を聞く.

しかし、全国の林地栽培において、失敗例が少なからずある.

一つは、手入れそのものが不十分でマツタケ向きに改善されていない.または、マツタケが生活できなくなったアカマツ林を手入れするケースである.

二つ目は、作業のやり過ぎである.一気に作業して土壌の乾燥しすぎを招いている.

三つ目は、発生環境整備を初年度に実施するが、翌年の補整作業を怠るケースである.整備後の林の放置は放置以前以上にマツタケの生活に不向きな状態になる.

かつて、マツタケ発生環境整備事業には公的資金の補助制度があったが、例えば、2週間で作業が完了する計画なら、人は2週間しか山に入らない.
これは作物の栽培者のすることではない.林家も、農家の努力を見習うべきである.

人工アカマツ林にもマツタケは発生
岩手県全体では15万haの、岩泉町に1.3万haのアカマツ人工林がある.そのほとんどがマツタケ発生前の若齢林で、ある林齢までは除間伐作業がなされるが、その後は、放置されているに等しい(有用資源の放置である).

また、1993年に岸長内沢試験林(人工林20年生)で、胞子播種により初シロの形成をみている.また、岩手県林業公社造林の人工アカマツ林にも、マツタケの発生がすでに確認できている.このことは、人工アカマツ林でマツタケ栽培が可能であることを意味する.

岩泉まつたけ研究所の輝かしい成果の一つであるが、向林試験林の一斜面に人工植栽のアカマツ林がある.1991~1992年にわたってアカマツ林の手入れを実施.
そのあとに土壌表層に階段状のステップを作り、マツタケの胞子とアカマツ細根との出会いすなわちマツタケ感染の機会を大きくするための作業を施した.1997年に、マツタケの自然感染による初シロが二つ形成された.

岸長内沢試験林についで人工林のシロ形成試験では、二度目の成功である.人工アカマツ林におけるマツタケ栽培法が確立したと考えてよい.実は、江戸時代、現群馬県太田市金山では、まつたけ発生量の落ちたアカマツ林を伐採し、植林を続けてマツタケの栽培している.

アカマツ人工林でマツタケを栽培するためには、林齢15年くらいあるいはそれ以下の若齢林にマツタケ発生環境整備作業を行うようにすべきである.現在の材生長の手入れ(=除間伐材の林内放置=土壌の富栄養化を招く=キノコが減少=樹木の衰弱)からマツタケ栽培の手入れに変換をすべきである.

マツタケ向きの手入れを施しても、材の生長に有意の差はなく、むしろ、樹木の生長に有意な効果をもつ菌根性のキノコが生活を始める.

マツタケ山の日頃の管理が最も大切で重要
アカマツ林が放置すると、アカマツの樹冠同士がぶつかり閉塞してくる.すると、アカマツの着葉量が低下し、細根量も少なくなる.また、広葉樹の密度が増え、地表の堆積物が厚くなる.
当然、林内は過湿状態で、土壌は富栄養化し、樹木の生長を助けるキノコが少なくなり、林は不健全で低生長になる.森林機能も落ち、新種の病気が発生する.

壮齢アカマツ林の観察を続けると、毎年少しずつ、アカマツが少なくなっているのが見えるようになる.当然のことながら、マツタケの発生量も減少する.マツタケの発生が最近落ちてきたと思われたら、それには必ずその原因があるので、適切な手入れ等が望まれる.

マツタケ林地栽培法は、アカマツやマツタケの生理生態をうまく利用し、マツタケを林地(天然林や人工林)にて栽培することである.
森林生物(植物や微生物)や森林土壌の物理・化学性のコントロールである(林つくり、土つくり、根つくり).
土壌微生物には、マツタケの生活に有利なグループと有害なグループと無関係なグループとがある.その関係をうまくコントロールすればよい(6).

 昭和20年代以前は、薪や柴や緑肥採取のために、毎日の山の利用(手入れ)をかかさなかった.昭和30年代も薪や炭の生産のため、これまた、毎日、林の手入れを怠らなかった.このようにすれば、マツタケの栽培は出来るのだ.
(1)山の手入れを怠らない.「雑木」や草本類が適正規模以上に繁茂しないようにする.
(2)アカマツの生長によって、枝と枝が重なるので重ならないように整枝する.または、間
伐する.
(3)傘をさしてハイヒールで歩ける林内.落葉・落枝をためすぎない.

マツタケが1本でも出ているアカマツ林があれば、あるいは、現在、近辺にマツタケが発生しているならば、是非、作業を始めて欲しい.


まつたけ栽培専業林家になれ! 里山林の通年型立体活用を考えよ! 
岩泉まつたけ研究所の閉鎖により、京都に戻って、いま、まつたけの聖地 京都でまつたけの増産に取り組んでいる.

目下、京都市左京区岩倉で京(みやこ)まつたけを復活させようと林造りを週1回のペースで実践している.仲間は、市民ボランティアである.

皆さんは、自分の体力に合わせて生き生きと連係プレーで作業をこなしている.人は心身ともに健康を維持し、林も昭和30年代の生態に戻りつつあり、生物の多様性を保全するという効果を生んでいる.

また、岩手県立大野高校生が、久慈平岳のアカマツ林を手入れして、今年の収穫祭でもマツタケを採取するだろう.見事に、マツタケ発生の復活を成し遂げたことは特筆すべきことである.
岩手県久慈市でもマツタケの増産を目的とした里山再生活動が始動する.長野県や岐阜県、石川県珠洲市、和歌山県や滋賀県長浜市でも、香川県小豆島でも京都府宇治田原町でも同木津川市鹿背山地区でもマツタケの生活する里山づくりが展開されている.

素人集団でこれだけのことが出来るのだから、プロの林家が寝て「まつだけ」では済まされないだろう.全国のマツタケ生産専業林家の収入は、2千万円を軽く越えている.たかが1ヶ月で、3~4百万円を稼ぐ例など枚挙に暇がない.
行政の補助金を当てにせずとも、自分の力で林作りをトライしてもいい事業である!

マツタケを尾根筋中心に、中腹では、他の食用きのこ(ホンシメジ、シモフリシメジ、アミタケ、クロカワ、ショウゲンジ、ハツタケ、マイタケ、マスタケ、ニンギョウタケなど)を、山裾では、タラノメ、コシアブラなど有用植物を栽培する.マツタケ発生整備作業で除伐した粗朶・落葉などで優良堆肥を作り、畑や休耕田で、山野草や作物の有機栽培が可能である.徹底した循環農林業を実践するのも意味があろう


引用文献

1)安田喜憲.1998.森と文明の物語.ちくま新書.
2)田端英雄編著.1997.里山の自然.保育社.
3)Ohara, H. and M. Hamada. 1967. Disappearance of Bacteria from the Zone of Active Mycorrhizas inTricholoma matsutake(S. Ito et Imai) Singer. Nature. Vol.
213. 528-529.
4)井原俊一.1997.日本の美林.岩波書店.
5)吉村文彦.1994. 岩泉まつたけ研究所業績報告1993年度版
6)吉村文彦.2003.土壌微生物社会における拮抗と協同-マツタケのシロの例-
 土壌微生物生態学.朝倉書店.

参考図書
吉村文彦.2004.ここまで来た! まつたけ栽培 (株)トロント発行(03-3408-1521)
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