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『硝子戸の中』(読書メモ)

夏目漱石『硝子戸の中』岩波文庫

新聞に掲載された漱石のエッセイ。ちなみに、硝子戸の中とは、漱石の書斎のことである。

書斎を訪れたお客さんとのやりとりが中心に書かれているのだが、その中の一人に、大学時代の友人Oさんがいる。

「彼の性質が鷹揚である如く、彼の頭脳も私よりは遥かに大きかった。(中略)大学を卒業すると間もなく彼は地方の中学に赴任した。私は彼のためにそれを残念に思った。しかし彼を知らない大学の先生には、それがむしろ当然と見えたかも知れない」(p.28-29)

その後、Oさんは中学の校長となった。

「昨年上京したついでに久しぶりで私を訪ねてくれた時、取次のものから名刺を受け取った私は、すぐその足で座敷へ行って、いつもの通り客より先に席に着いていた。すると廊下伝に室の入り口まで来た彼は、座布団の上にきちんと座っている私の姿を見るや否や、「いやに澄ましているな」といった。その時向の言葉が終わるか終わらないうちに「うん」という返事が何時か私の口を滑って出てしまった」(p.29)

一瞬のうちに大学生に戻ってしまった漱石がかわいい。

漱石の内側を垣間見れる本である。







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