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『はじめての後輩指導』(読書メモ)

田中淳子『はじめての後輩指導』日本経団連出版

後輩や部下の指導のあり方について、とてもわかりやすく書かれた本である。さまざまな事例が盛り込まれているので、本書を読んだ人は、次の日から何か応用できるだろう。

最も印象に残ったのは「仕事の全体像や目的」をきっちり説明することの大切さ。次のたとえ話が心に残った。

「わかりやすい例で考えてみましょう。修行中のコックさんです。調理師免許を取り、老舗の洋食屋に入店します。先輩からは、「ジャガイモ洗って、むいておいて」といわれます。最初は、仕事を与えられた喜びでいっぱいでしたが、しばらくすると、くる日もくる日もジャガイモを洗うことに飽きてきます。作業は少しずつ荒くなるかもしれません。もしそのとき、「このジャガイモは、うちの創業当時からの名物メニューであるコロッケに入れるものなんだよ。だから丁寧に洗って」と指示されたらどうでしょうか。「あ、そうだった。あのコロッケのジャガイモをむいているんだ」と仕事に対する取り組み方が変わってくることでしょう。仕事は、単に部分として与えるのではなく、なぜそれをするのかや、全体とのつながりまでがイメージとしてつかめるように伝えることです」(p.56-57)

こうした説明は日本人が苦手とするところだろう。「そんなこと言わなくったってわかるだろう」と「あ・うん」の呼吸で済ませてしまいがちだ。しかし、上司や先輩もそのうち「何のためにしているんだっけ?」と仕事の目的や意味が無意識の中に沈んでしまう。部下や後輩に教えることで、改めて仕事の意味を再認識できるのではないか。

もう一つインパクトがあったのが挑戦のさせかた。著者の田中さんが新人の頃、はじめてお客様に出向き製品・サービスを説明することになった。不安そうな田中さんに対し、先輩が次のように言ったという。

「田中さん、何か合図を決めておこう。お客様の質問に困ったり説明に詰まったりと、とにかく助けてほしいと思ったら、右側のほっぺたをさすってくれる?たぶんぼくは右側に座ると思うので、右側のほっぺたにそっと手を当ててくれれば、すかさず助け舟を出すから。そうでないかぎりは、自分でがんばってごらん」(p.97)

田中さんは、「右のほっぺた、右のほっぺた」と呪文のように唱えながらも、お客様への説明や質問への回答を無事こなし、最後まで頬をさわることがなかったという。

挑戦するためには、失敗しても大丈夫という安心感が必要である。組織学習研究ではこれを「心理的安心感(psychological safety)」と呼ぶ。「右のほっぺた」は、まさにこの安心感を与えることで、挑戦を後押ししているのだ。

このほかにも、本書にはたくさん後輩・部下育成のヒントが詰まっている(僕もさっそく使おうと思った方法がいくつかあった)。ちょっとした工夫や配慮が、人の成長を刺激するのだな、と感じた。




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