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『アンジェラの祈り』(読書メモ)

フランク・マコート(土屋正雄訳)『アンジェラの祈り』新潮社

ピューリッツアー賞を受賞した前作『アンジェラの灰』の続編である。

分厚い本なのだが、なぜか「読まさる本である」(北海道弁で「つい読んでしまう」の意味)。

前作は、アイルランドの貧しい家庭で、飲んだくれの父(家にいない)、信心深い母、弟たちと暮らす主人公フランクの話しなのだが、本書は、成功を夢見てニューヨークに渡ってきたフランクが、ホテルの雑役婦や兵役を経て、ニューヨーク大学を卒業して教師になり、自分の家庭を持つまでを描いている。

1つ驚いたことがある。それは、フランクが高校を卒業していないにもかかわらずニューヨーク大学への入学を許可されたこと。

「事務局長はやさしそうな顔をした女の人で、これは珍しいケースですね、と言う。そして、アイルランドで受けた教育のことを知りたがる。ヨーロッパの生徒がアメリカよりレベルが高い傾向にあることは、わたしも経験から知っています。では、一年間B平均の成績を維持するという条件で、入学を許可しましょう、と言う。そのあと、私の仕事を尋ね、肉の積み卸しのことを話すと、あらまあ、この年になっても毎日何かしら新しいことを学ぶものね、と言う」(p. 217)

さすがアメリカである。

もう一つ印象に残ったのは、英語教師として初めて赴任した職業高校で、やる気のない学生をやる気にさせる教育法。それは、生徒たちの両親世代が書いた作文(採点もされずに倉庫にほったらかしにされていたもの)を教材にすること。

「私はぼろぼろになりかけている作文を机の上に積み上げ、クラスに読んで聞かせる。知っている名前が出てきて、生徒が緊張する。わっ、それ、おれのおやじだ、と言う。おやじはアフリカで怪我をした。そっちはグアムで戦死したサルバトーレおじだ。私は作文を読みつづけ、生徒の目に涙が湧く。男子生徒は教室から便所へ駆けていき、赤い目をして帰ってくる。女子生徒はかまわずその場で泣き伏し、慰め合う。(中略)私たちは四月から七月まで、学期の残り全部を使って、身近な家族の身近な過去を保存する。ペンを忘れる生徒は誰もいない。みな手書きの原稿を判読し、書き写す。涙が流れ、ときには号泣が起こる。これは、十五歳のときのおやじだ、と言う。おばさんだ、お産で死んだおばさんだ・・・。」(p. 390)

本書を読み、一人ひとりの生涯に歴史とドラマがあるということを、深く感じた。
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