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『ハムレットQ1』(読書メモ)

シェイクスピア(安西徹雄訳)『ハムレットQ1』光文社

この本を読んで感銘を受けたのはその内容よりも、シェイクスピアの作品制作方法だ。

ハムレットQ1の「Q1」とは、Quartoの略で、縦24センチ横18センチの「四折本」のことを指すらしい。ハムレットには、Q2とかFとかいろいろなバージョンがあるらしく、このQ1は最初に出版された最も短いもの。

解説を書いている上智大学の小林先生は次のように説明している。

「シェイクスピアが『ハムレット』を発表する以前に、ハムレットという人物を主人公にした劇が上演されていて、それが大いに評判を呼んでいた。シェイクスピアはそこで、今日では失われてしまったこの古い劇を大きく書き変え、新たな『ハムレット』をつくりあげたが、Q1はこの改作の過程の初期段階をあらわしたもので、Q2はその次の段階、そして最後にFは、これにさらに手を加えたものと考えるのである」(p.154)

一番はじめのバージョンなので、荒っぽい感じがしたのだが、とにかくスピード感がある。ハムレットのたたみかけるようなセリフがリズミカルに放たれるので、まるで劇を見ているような気分になった。

もう一人の解説者である東大の河合先生の説明も面白かった。

「上演台本というものは芝居の現場に応じて変わるものだ。演出上の都合であちこち台詞をカットすることはよくあることだし、作家が現場にいるなら演出家の要請に応じて書き直すことだってありうる。(中略)シェイクスピアは現場の人であったのだから、常にそうした現場の要請に応えながら台本を用意していたはずだ。作品を再演するたびに何かしら変えないほうが不自然だったとさえ言えるだろう」(p.174)

「シェイクスピアは現場の人であったのだから」という言葉にインパクトを受けた。シェイクスピアは現場で格闘しながら台本を書いていたからこそ、現場の迫力が作品から伝わってくるのだろう。「現場を大事にしろ」と言う企業の人は多いが、どのような領域においても、現場は創造の源なのだ、と感じた。




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