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『旅人:ある物理学者の回想』(読書メモ)

湯川秀樹『旅人:ある物理学者の回想』角川ソフィア文庫

日本人ではじめてノーベル賞を受賞した湯川秀樹先生の自伝である。

湯川先生は結婚してから姓が変わったので、もともと小川秀樹さんだった。

ちなみに、お父さんは京大教授(地質学)であり、五人の男兄弟は全員研究者になっているのだが、その中で、湯川先生だけが「研究者には向かないのではないか」とお父さんから思われていたようだ。

本書を読んで一番印象に残ったのは、友人の一言の大きさである。

中学四年生のときのことを湯川先生は、次のように回想している。

「二人が一組になって物理実験をやった。私の相棒は工藤信一郎君であった。湿度の測定の実験をやっていた時のことである。(中略)私はこの実験にうまく成功した。非常に愉快であった。その時、工藤君が突然、

小川君はアインシュタインのようになるだろう

と言った。
その瞬間私は何のことかわからなかった。私はまだ自分が理論物理学者になるだろうとは、全然思っていなかったのである。(中略)
アインシュタイン博士は、私からは何の関係もないように思われた。それにもかかわらず、工藤君の一言は私の舟を取りまいている氷に、目に見えぬひびを入らせたようであった」(p.143-144)

友達からの何気ない一言であるが、確実に湯川先生のキャリアを(少し)方向づけている。

この箇所を読み、「他者からの何気ない言葉」を大事にしないといけない、と感じた。

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