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プラスマイナスゼロ

色川武大さんの『うらおもて人生録』(新潮文庫)が深すぎたので、今週は読書メモを休んで、2つの考え方を紹介したい。

今日は、「プラスマイナスゼロ」の話。

「人生のトータルというものは、結局プラスマイナスゼロに近いものになってしまうようだ、という、まずこのことが、どうもうまく伝達しにくい。生きていくうえで、誰も、ゼロを目標にはしていないよね。だから、結局はゼロだぞ、といういいかたは、人の気持ちを少しもひきつけないんだ。だからしゃべりにくい」(p.222)

この話が深いのは、個人のケースを飛び越えて、組織や社会にまで言えそうだということ。一番びっくりしたのは、次の箇所。

「物事というものは、進歩、変革、そういうことが原因して、破滅に達するんだ」「たとえば、誰かが、俺たちの生活が一変するようなものすごい発明をしたとするね。あ、人類にとって大きなプラスだ、科学の勝利だ、それはそのとおりなんだけれども、この勝利によって、その分だけ確実に、終末に近づいてもいるんだ」(p.222-223)

科学技術の進歩がもたらした気候変動や原発による汚染などを考えると、色川さんが言っていることが実感できる。そして、「革新=良いこと」という前提が崩れてくる。

そして、色川さんは我々にアドバイスする。

「調子に乗って、十五戦連勝なんて、狙っちゃダメだ。破滅をひきよせているようなものさ。九勝六敗どころか、現状では、七勝八敗くらいを目標にしてちょうどいいかもしれないね」(p.232)

もうすこし肩の力を抜いて仕事をしよう、と思った。
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