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『天才の栄光と挫折』(読書メモ)

藤原正彦『天才の栄光と挫折:数学者列伝』文春文庫

ベストセラーとなった『国家の品格』で有名な、数学者・藤原正彦先生が、世界の数学的天才について綴ったエッセイ風の評伝である。

ニュートン、関孝和、ガロワなど、総勢9名の天才数学者たちが紹介されているのだが、藤原先生が現地で取材をしているので、育った土地や学んだ大学の息づかいが聞こえてきそうだ

読み終えて感じたのは「天才に幸せな人はいないな」ということ。ニュートンは別として、決闘で殺されたり、若く病死したり、自殺したりしている人が多い。天才として生まれても、あまり良いことはないかもしれない。

9名の天才の中で最もインパクトがあったのは、インドのシュリニヴァーサ・ラマヌジャン

ラマヌジャンは、15歳のときに『純粋数学要覧』(大学初年級までに習う6000近い定理が証明なしに並べられている本)と出会う。

彼は、この本に没頭し、膨大な定理を自分の力で証明していきながら、新しい公式を発見するたびにそれをノートに書き込んでいた。数学以外に興味を示さないラマヌジャンは、大学を落第してしまうのだが、ケンブリッジ大学に送った手紙を見た数学者たちは衝撃を受ける。

ラマヌジャンは何が凄かったのか?

それは、直感力と洞察力である。藤原先生は次のように評している。

「ラマヌジャンは「我々の百倍も頭がよい」という天才ではない。「なぜそんな公式を思いついたのか見当がつかない」という天才なのである。アインシュタインの特殊相対性理論は、アインシュタインがいなくとも、二年以内に誰かが発見しただろうと言われる。数学や自然科学における発見のほとんどすべてには、ある種の論理的必然、歴史的必然がある。(中略)ところがラマヌジャンの公式群に限ると、その大半において必然性が見えない。ということはとりもなおさず、ラマヌジャンがいなかったら、それらは百年近くたった今日でも発見されていない、ということである。」((p.191-192)

天才にも、「普通の天才」と「とんでもない大天才」がいることがわかった。

しかし、その大天才のラマヌジャンも、イギリスになじめず不治の病に倒れ32歳で世を去ってしまう

やはり天才は悲劇的である。
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