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『安部公房伝』(読書メモ)

安部ねり『安部公房伝』新潮社

もう少し長生きしたらノーベル賞をとっていたであろうと言われる安部公房について、娘のねりさんが記した伝記である。

ふつう伝記を読んでいくと、その人のイメージというものが出来上がっていくものだが、この本を読んでも、安部公房がなかなかつかみきれないので不思議に思っていた。

本書の最後のほうで、親しかった大江健三郎が次のように語っているのを読んで「やっぱり」と思った。

「安部さんはやはり他の人間から見ると、それは僕も含めてですが、よく分んないところのある人だったと思うんですね」(p.302)

東大医学部を出た秀才で、論理的な人間である一方、イマジネーションに満ちているところが印象に残った。次は、父と娘の会話である。

「「ねり、手って何か特別な感じがしないか」と父は私に話しかけた。私が「どう特別なの?」と言うと、父は「たとえば道に、手が落ちているとするだろう。そうしたら、とてもびっくりするじゃないか」と脱線をし、「それなら足首が落ちてたってびっくりするし、首が落ちていたらもっと驚くじゃない」と、親子らしいすれ違いをしてしまった」(p.196)

また、安部さんが育てた劇作家の清水邦夫さんも次のように語っている。

「言っちゃなんですけど、かなりバカバカしい話をされるんですね。たとえば飛行機の夢、電信柱が邪魔してどうしても着陸できないっていう夢とかね、そういうのを、なんか、ヒントにならないか、とかね。それでね、なんか夢用のメモなんか手帳みたいなのがあって、書き留めてるんだって」(p.286)

たぶん、左脳と右脳が発達していて、そこを行ったり来たりする中で、凄い作品が生まれてくるのだろう、と感じた。

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