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『ウンコ・シッコの介護学』(読書メモ)

三好春樹『ウンコ・シッコの介護学』雲母書房

生活とリハビリ研究所を主催している理学療法士の三好さんの介護論である。特別養護老人ホームでのご自身の経験をベースに、ユニークな語り口で「いかにオムツを外すか」について持論を展開している。

介護の現場で当たり前のように使われているオムツ。このオムツを外すところに人間としての尊厳がある、と三好さんは語る。

欲求階層説というモチベーション理論を提示した有名なマズローを批判しているところが一番印象に残った。

ちなみに、マズローという人は、人間の欲求を「生理的欲求→安全欲求→社会的欲求→自尊欲求→自己実現の欲求」という階層に分け、自己実現欲求が人間として一番最高の欲求であると主張した人。この考えに対し三好さんは次のように反論する。

「でも、それは違うと思います。今日、どう食べるのか、ということの中に自己実現はあるんです。今日、どう排便するかの中に自己実現があるのです。もちろん、自己崩壊もそこにあります。トイレでちゃんと排便するか、それが自己崩壊になるかどうかの分かれ目です。そこに関わっているのが、私たち介護職です。食べたり出したりすることは、マズローが言うような、低次で動物的なことではなく、最も基本的な人間性なんです。それを含んでいない人間性とはいったい何なんだ、と逆に問わなければなりません」(p.173-174)

もう一つ心に残ったのが「老人問題」のとらえ方。人間の時間の流れを「生まれ、成長して、年とって、死んでいく」というように見ると、「老人問題」とは、進歩しないで成長が止まり、老化していくことを問題にすることになる。しかし、三好さんはそうではないと言う。

「老人問題は、年をとった世代の問題なのではなくて、どの時代にも普遍的な、世代と世代との関係の問題なんです。つまり、老人問題ではなくて、「老人」という世代にわれわれの世代がどう関わっていいいかがわからないという問題、という見方ができるでしょう。そうすると、これはもともと「老人」の問題ではないのです」(p.183)

本書を読んで、介護の問題は、若い世代や中年世代が真剣に考えていかなければならない問題であることを実感した。

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