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『門』(読書メモ)

夏目漱石『門』新潮文庫

『三四郎』で大学生だった主人公が、『それから』では大人になり、友人の妻を奪う。その後の生活が書かれているのが本書である(ただし、物語がつながっているわけではない)。

わくわくしながら手に取ったが、期待に反し、めちゃくちゃ地味な内容だった。しかし、衝撃を受けた『それから』よりも、しっとりとした雰囲気の『門』のほうが好きかもしれない。

略奪愛で結ばれた夫婦は、逃げるように広島、福岡へと流れていたが、ひょんなことから東京に舞い戻る。本書には、宗助と妻の御米(およね)がひっそりと暮らす日々が描かれている。

ちなみに、解説を読むと『門』という題は漱石の弟子がつけたようで、本書の最後には、つじつま合わせのように主人公が禅寺に入る場面がある。結局悟ることができなかった宗助は、もとの生活に戻るのだが。

以前の活力が失われ抜け殻のようになって役所勤めをする宗助と、まるで罰を受けたように流産・死産を重ねて子供をあきらめた御米。罪の意識に苛まれながらも、いたわりあいながら寄り添う夫婦の中に、等身大の愛を感じた。

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