暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

正午の茶事  藤の咲く頃に (1)

2011年05月09日 | 思い出の茶事
茶友のKさんから正午の茶事のお招きがありました。
「藤の咲く頃に我が家で初めての茶事を・・・」
と伺っていましたが、
案内の手紙を頂戴したのは大震災の直後、
茶事の中止や延期をお願いしまくっていた最中のことでした。
Kさんの並々ならぬ決意が伝わってきて、
ご亭主の気持ちに応えられるよう、準備して臨みたい・・と思いました。

先ずは衣を調えることで、お祝いの気持ちを表わそうと思いました。
迷いながら、三つ紋のある色留袖に決めました。
亡き母から譲られた、想い出多い藤色の着物です。
しばらく袖を通さないうちに、だいぶ派手になってしまいましたが、
鶴の刺繍に諸々の喜びを込めました。

                            
               
当日(4月29日)、関守り石と手掛りに導かれ、待合へ入ると
青楓と「添翠色」の画賛がさわやかな季節の風を運んでいます。
火入の灰が美しく調えられています。
見慣れた部屋なのに全てが新鮮で、ご亭主のセンスが溢れていました。

藤棚の下の腰掛で迎え付けを待ちました。
藤の花は遠慮がちで、三分咲きでしょうか? 

蹲をつかう水音が聞こえ、いよいよ迎え付けです。
枝折り戸前へ客三人が並び、無言の挨拶を交わしましたが、
「以心伝心」
ご亭主の緊張感や喜びが素直に伝わってきます。
私も感無量でした・・・。

               

蹲をつかって身心を清め、新しく扁額が掛けられた茶室へ入りました。
床には建長寺管長筆の「喫茶去」。
「どうぞお入りを・・・」
その後の挨拶はよく覚えていないのですが、
今日の日を無事迎えられたことが只々嬉しく、
どちらが正客なのか亭主なのかわからないほど、
二人の気持ちがぴったりと噛み合っていたように思います。

初炭では、躍動的な藤花文のある透木釜も素敵でしたが、
流れるような炭手前が何よりのごちそうでした。
炉縁は、小間では木地、広間は塗りが約束ですが、
中間の四畳半なので拭き漆の炉縁にしたそうです。
赤味を帯びた拭き漆がとても明るく、粋な感じでした。
香合は染付の花笠、香は松栄堂の瑞雲です。
鉾のような花笠香合の形が珍しく、もうじき始まる葵祭りを連想しました。

     (正午の茶事 藤の咲く頃に(2)へつづく)           


     写真の「藤の花」は、季節の花300の提供です。


香りを見る  「香り かぐわしき名宝展」

2011年05月06日 | 美術館・博物館
午後の昼下がり、関西に住む茶友のEさんから電話です。
「東京へ出てきているので 明日どこかへご一緒しませんか?」
東京芸術大学大学美術館で開催中(4月7日-5月29日)の
「香り かぐわしき名宝展」へご一緒しました。

展示会のテーマは「香を見る」です。
どのように香りを見せるのか、展示の構成やレイアウトにも興味津々でした。
展示は、「香りの日本文化」「香道と香りの道具」「絵画の香り」に分けられています。

一番知りたかったのは、六世紀に仏教伝来とともに伝わったという香の歴史と、
香道という日本文化でしょうか。それから香木も・・・。
法隆寺・玉虫厨子の柄香炉を持った「舎利供養図」(模本)は興味深いものでしたが、
名宝展ならば本物を展示して欲しかった・・・と残念です。
伝来当時から仏の供養の基本は香、花、灯(あかり)だったそうですが、
その伝統は我が家でも細々と受け継がれています。

「香を聞く」コーナーがあり、伽羅の香りを聞きました。
伽羅は焚くことによって香りが生じ、白檀は常温で薫ります。
展示品一番のお気に入りは、「白檀香合仏千手観音坐像」(平安~鎌倉時代)。
手のひらに乗る大きさの香合仏は蓋を開けて拝むたびに、
えも言えぬ佳い香りが漂ったことでしょう。

                  

名高い黄熟香「蘭奢待(らんじゃたい)」は模本の展示でしたが、
森鴎外著「興津弥五衛門の遺書」に登場する香木「一木四銘」が展示されていて、
感慨深く拝見しました。
普通、香木は一木一銘で所蔵者が変わっても銘はそのまま引き継がれますが、
「一木四銘」とは一木で四つの異なる銘を持つ伽羅の名品の香木を指します。
四銘とは「蘭(ふじばかま)」「初音」「白菊」「柴船」で、
香銘はいずれも和歌から名づけられています。

組香という香を当てるクイズ(?)があります。
組香の勝負を視覚的にわかるように駒を進める「盤」を使ったりします。
「花笠香」「競馬香(くらべうまこう)」名所香」「矢数香」などの「盤」が
展示されていますが、どうやってこれを使うのかしら?
「競馬香」を録画で拝見できるコーナーがあり、
やっと「盤」を使う組香の世界を垣間見ることができました。

               

一休宗純(1394~1481)の作と伝える、次のような香の十徳があるそうです。
   感格鬼神  清浄身心  
   能除汚穢  能覚睡眠
   静中成友  塵裏倫閑
   多面不厭  寡而為足
   久蔵不朽  常用無障

 (霊魂や神と感応をし、心や身体を清める。 
  けがれを取り除く。 佳く睡眠から目覚める。
  静かの中に真の友を得る。 世俗の繁忙の中に憩いが見つかる。
  多くても厭にならず、少しでも満足する。
  永く保持しても腐らない。 常に用いても害にならない)

思いがけず香の展示会へご一緒し、お互いに深く知り合えたEさん、
  静中成友  塵裏倫閑
嬉しい香(好)日でした。
                                


        写真は上から、「お隣の木香薔薇 (もっこうばら)」
                  「観音石像  江ノ島岩屋洞窟にて」
                  「我が家の苧環(おだまき)」