白壁の町並がつづく・・・山口県柳井市にて
(つづき)
・・・後座のことを思い出に記しておきます。
床柱に黄色い蕾の山吹と紅い藪椿が野にある如く生けられていました。
大ぶりの筒花入は「備前焼かしら?」と次客T氏と囁いていたら、
なんと陶芸家T氏本人の初期作品、安南焼の掛け花入でした。
「・・・そうでした! ヴェトナム(安南)まで土を取りに出かけて創ったものです。
先ほど備前焼と言いましたが、黒の土色が安南独特で全く違います」と懐かしそうに話してくださいました。
「花がとても引き立つので、お気に入りでよく使っています」とOさん。
点前座の堂々とした水指(伊賀耳付、佐久間芳丘作)に魅せられ、若草色の仕覆を着た茶入が濃茶の世界へいざないます。
松風と鳥のさえずりが幽かに聴こえる静寂の中、お点前が始まりました。
茶碗を持ち、すっくと立つ姿勢の良さ、美しい足運びは一瞬能舞台を連想します。
やがて勝手付の窓の簾が上げられ、ご亭主の姿がより鮮明になってきました。
(あれっ?・・・う~ん??)
袱紗の四方捌き、茶入や茶杓の清めの所作を一同息を飲むように見つめます。
やがて茶香が満ちて来て、濃茶が練り上げられ、古帛紗が添えられました。
何とも言えぬ高揚感を覚えながら茶碗を取りに出て、艶やかな翠の濃茶をたっぷり頂戴しました。
お練り加減好く、なんて甘くまろやかな濃茶でしょう。
濃茶は長松の昔、柳桜園の詰です。
茶碗は萩焼の井戸茶碗、萩の七変化と言いますが、艶やかな飴色の肌合いに使い育てられた愛情を感じます。
轆轤目も美しく味わいのある茶碗の作者をお尋ねすると
「ご次客のT氏作でございます」
隣りでT氏が
「この茶碗に今日の茶事で出逢うとは・・・・涙が出そうです 」
きっと亡きO氏とのいろいろな思い出が走馬灯のように通り過ぎて行ったことでしょう。
先ほどから「あれっ・・・う~ん??」と気になっていたことを思い切ってお尋ねしました。
「光線の加減かもしれませんが、御着物が初座と違うように見えるのですが・・・」
「濃茶を差し上げるのは無地の着物で・・と思いまして中立で着替えました。
それで長くお待たせし失礼いたしました」
もうびっくり!しました。
数寄者が中立で着物を着換えることがある・・・と何かの本で読んだ記憶がありますが、初めての経験です。
初座は渋い緑色(鶯色?)に箔の入った素敵な着物だったと思うのですが、
後座では藤色の無地紋付に着替えてくださったのです。
客一同、亭主の心入れを深く感じ、お洒落なおもてなしに感動いたしました・・・。
拝見した茶入は今高麗の阿古陀形、仕覆は若草色に花文のある早雲寺文台裂、
茶杓は銘「好日」(紫野大真和尚作)です。
角館で購入されたという樺細工の桜模様の薄器も心に残っています・・・きっとお二人の思い出のお品なのでしょうね。
一つ一つにご亭主Oさんの御心がこもる茶事でした・・・ありがとうございました!
相客の皆様とのご縁が嬉しく、またいつかOさんの茶事でお会いしたいものです。
Oさんとは同い年、お互いに健康に留意して、これからも長くお付き合いして頂ければ・・・と願っています。
またお会いいたしましょうね。
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柳と桜の茶事のあとに山口と萩の旅へでかけました。