一の坂川の柳と桜・・・茶事の後で訪れた山口市にて
(つづき)
その日は春雨が降っていました。
タクシーで白壁の町並をゆっくり通ってもらい、11時頃にご亭主Oさん宅へ到着。
待合は広い応接室兼リビング、枝垂れ桜が咲いている広い庭に面しています。
既に数人がいらしていて、まもなく全員が揃いました。
相客の皆さまとは初対面ですが、ご挨拶するとすぐに親しくなり、一座建立の心意気が生じるのが茶の湯の凄いところだと思います。
次客は萩焼作家T氏、Oさんの亡きご主人とも親しくされていた方でした。
三客Kさま、四客Tさま、詰Fさまは地元のご友人です。
テーブルに「賓主互換」と書かれた茶扇がありました。
あとで伺うと、鵬雲斎大宗匠筆、ご亭主が今日庵へ修練へ行った折に頂いた、思い出多きお品でした。
「亭主は客のことを・・客は亭主のことを・・思いつつ、互いの心を通わせる」
これぞ茶事の真髄ともいうべき憧れの境地です・・・。
糸巻の煙草盆に火入の灰形が美しく調えられいます。
火入(慶入作)の深みのある緑釉に魅せられ、阿古陀形が印象に残っています。
「柳井」の地名にちなむ井戸と柳・・・柳井市湘江庵
白湯を頂き、雨なので蹲踞を使わずに室内から席入しました。
茶室は八畳、庭に面して躙り口が設けられていて、凝った天井の作りに目を見張りました。
一間の床と一間の書院が並び、床柱は桜でしょうか。
「柳 緑花紅」(淡々斎御筆)の軸が掛けられていました。
柳の字が中央に大きく書かれ、風になびいているようにも見え、
昨日訪れた「柳井」の地名にちなむ井戸と柳の姿が目に浮かんできます。
重厚な味わいの釣釜が掛けられ、初炭が今から楽しみです。
2年ぶりでしょうか、ご亭主のOさんがお出ましになり、懐かしく挨拶を交わしました。
その瞬間に見えない絆がしっかり結ばれたように感じ、茶事にて再会できた喜びを精一杯伝えました。
椿の散華・・・山口市・龍福寺にて
初炭になり、炭斗や灰器を運ぶ美しく確かな足運び、流れるような所作を一同息を詰めて見つめます。
鎖の小あげに続いて釣り釜があげられました。
内心、とても重いのでは?と心配していたのですが、流石ですね。
釜は遠山文筒釜、加藤忠三郎造です。
初掃きで炉縁に寄り、丹精された炉中、湿し灰が撒かれ、炭が置かれていく様子など、主客の一体感が高まっていくようで、初炭の大好きなシーンです。
香が焚かれ、香合が拝見に出されました。
それは笛、篠笛でしょうか。
仕覆に乗せて持ち帰りましたが、あとで伺ってほっと胸を撫で下ろしました。
笛香合は金と黒の縞模様になっていて陶製、惺入作でした。
亡きご主人が入手され、Oさんは初使いだそうです。
「桜の下の宴に笛の音色を楽しんでいただけたら・・・」とOさん。
萩焼作家T氏のお話では、亡きご主人もお茶をされていて、なかなかの数寄者で魯山人ばりの陶芸もされる方だったとか。
そのお話を伺って、Oさんを亡きご主人がやさしく見守り、茶事の後押ししているように思ったのですが、その後も随所で応援の声が聴こえてきたのでした・・・。
香は坐雲(鳩居堂)です。
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