今日は、この街にいます。

昨日の街は、懐かしい記憶になった。そして・・

837 シントラ【ポルトガル】

2018-08-21 09:13:27 | 海外
リスボンの北西30キロほどの大西洋側に、シントラという街がある。リスボンからは電車で40分ほどの、首都のベッドタウンのような小さな街だ。だが歴史は古く、丘陵に点在する王宮や城砦跡などが醸し出す「シントラの文化的景観」は、世界遺産に登録されている。私たちはロカ岬に行くため、この街から海を目指すのだけれど、その前に街を循環する路線バスに乗って、車窓からの世界遺産ツアーを試みる。



曲がりくねった丘陵の登り坂を、バスは勢いよく飛ばして行く。路傍に巨岩がゴロゴロし始めたあたりで頂を望むと、かろうじて城壁らしい石積みが見える。案内に「ムーア人の城跡」とある砦跡なのだろう。狭い海峡でアフリカと向き合うイベリア半島には、異文明が対峙した痕跡が多く残る。この「ムーア人」とは何か。どこかで聞いたことがある響きに魅せられ、シントラで私が最も眺めたかった「景観」である。



7世紀以降、イベリア半島に進出したイスラム勢力には、北西アフリカの民・ベルベル人が従軍していた。北西アフリカ、つまりマグレブ(Maghreb)と呼ばれる地域に古くから暮らす人々だ。現在この地の国々にはアラブ人が多いが、ベルベル人の総人口も1000万人を超えており、モロッコでは人口の半数を占めているという。このベルベル人を含むイスラム勢力を、キリスト教圏では「ムーア人」と呼んだのだろうか。



ところで「マグレブ」という呼称を耳にすると、私は「砂漠の日没」を思い浮かべて恍惚となる(見たことはないのだが)。そして作家の小川國夫さんを思い出す。知り合った年に刊行された作品が『マグレブ、誘惑として』だったのだ。作者本人である老文士が、若き日の友人を捜しにモロッコへ旅に出る物語だ。友人はパリの学生時代に親しくなった、引き締まった体格の読書家である。その彼が、ベルベル人だった。



モロッコには3つのベルベル系の部族があって、それぞれに性向が異なるといった記述もある。小川さんがご存命なら、キリスト教とイスラムの衝突、マグレブにおけるムーア人とイベリア半島でのレコンキスタ(国土回復運動)について、教えていただきたいところだ。二つの文明の出会いは、何を残し、何を生み出したのだろうかと。戴いた著書には小川さんの自筆で「私は無に降り漆黒を凝視した 小川國夫」とある。



ロカ岬で「地尽き海始まる」ことを確認した私たちは、再びバスに乗って南のカスカイスに向かう。テージョ川が大西洋に流れ出て、陸地を大きく穿ったような海岸にある街だ。リスボンとは鉄道で結ばれ、隣接するエストリルと共にポルトガルの代表的リゾート地だという。北部ヨーロッパやイギリスなどの人々にとって、乾いた陽光が降り注ぐ街と海は、憧れなのだろう。多くの人々が休暇を過ごしにやって来る。



カスカイス駅前は観光ロードに続いていて、路地を入ると崖下に小さなビーチが広がっている。好天の砂浜で大勢の海水浴客が肌を焼いている。その光景を眺めた途端、米国西海岸のモントレーが二重写しに現れた。突然甦った記憶を楽しみながら、地球は似た街を創るものだと一人納得する。しかしモントレーは太平洋、こちらは大西洋である。海の青は大西洋の方が濃いように思うが、その差は定かでない。(2018.7.5)







(米国モントレー海岸)

(同)








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