「いづら」はまるで呪文のように、不思議な「ときめき」となって私の心を波立たせる。それは岡倉天心という、日本美のカリスマにつながっていく地名だからなのだろうけれど、そうした神秘的な人格が身を潜め、潜めたがゆえに多くの若い才能を引き寄せた土地とは、いったいいかなる「場」なのだろうと、いつも「ときめき」ながら空想してきたのである。そして漸う訪ねてみて、いまは夢から覚めた心持ちである。
茨城県の北はず . . . 本文を読む
ようやく梅がほころび始めた季節の平日の昼下がり、初めての街・いわきを歩く。旧平市街と言ったら判りがいいか、城跡らしき高台をぐるりと回ってJRいわき駅構内を抜け、市街地に出る。まっすぐ南へ広い道が延びていて、その周辺が繁華街であり官庁街らしい。程なく行き当たる流れを新川といい、東の夏井川とともに城下を守る濠のような構造である。城下町から地方都市へ、実にわかり良い構造の街である。
福島の人々は、県 . . . 本文を読む
「しおやざき」という響きが、微かな記憶を連れてきた。人里遠く断崖に立つ灯台が、暴風雨に曝されている。その灯火を守ろうと、懸命に手を取り合う灯台守夫婦。「頑張って!」と声に出しそうになりながら、私は小さな握りこぶしに力を込める――。小学生のころ、学校の映画鑑賞会で観た映画の、ほとんど擦り切れた思い出である。その塩屋崎が福島県いわき市に所在することは、記憶から完全に抜け落ちていた。
大雑把に日本地 . . . 本文を読む