「正面の山並みは安達太良連山で、中央の山頂が尖っている峰が安達太良山です」。私は「二本松 春さがし号」という市内循環の臨時バスに乗り、一人だけの乗客であることをいいことに、運転手さんとの会話を楽しんでいる。道路の先を塞ぐお城山を、淡いピンク色に染めているのは満開の桜だ。まるで丘にたなびく霞か雲で、二本松城が霞ヶ城と呼ばれる所以がよくわかる。二本松は「智恵子の街」である。だとすればあの空が「ほんとの空」か。
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「樹齢千年以上」という推定が正しければ、芽吹いたのは紫式部が源氏物語を書いていたころになる。福島県三春町の滝桜である。それから150年ほどして、奥州・平泉を目指す西行が近くを歩いて行った。「花の下にて春死なん」と願ったほどの桜好きの西行だから、評判が高まっていれば立ち寄ったかもしれないけれど、そうした記録はない。まだ特段目立つベニシダレザクラではなかったのだろう。そして滝桜は今、私の眼前で咲き誇っている。
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勝沼について、正確な街の位置も、今では甲州市と名前が変わっていることも知らない、いかにも山梨県に不案内な私であるけれど、「勝沼といえばブドウとワイン」ということはしっかり刷り込まれている。国内におけるブドウ栽培とワイン醸造のそれぞれの発祥の地だそうで、ブドウは1300年、ワインは130年の歴史があるのだという。だから駅名に「ぶどう郷」を加えなくてもわかるのに、などと思いつつ、「勝沼ぶどう郷駅」で下車する。 . . . 本文を読む
私はこの日、笛吹市東端の丘に立ち、遥か西方を塞ぐ南アルプスの銀嶺と向き合っている。陽光に温もる甲府盆地は、ところどころ桃色の布団に埋もれて眠っているような静けさである。「この日」を選んだのは「花々が晴天のもとに咲き揃う日」を慎重に選んだ結果であって、4月10日が市が定める「桃源郷の日」なのだとは知らなかった。元日から100日目の「百=もも」に当たるから、桃の作付け日本一の街として10年前に制定したのだとか。 . . . 本文を読む