お爺さんに抱かれた幼女はじっと私を見つめ、やがてその小さな手を振って微笑んだのである。何と可憐な仕草か! 思わず一枚撮らせていただいた。小雨に濡れる桑名城跡。孫と散歩のご老体には至福の昼下がりであったろうに、得体の知れない男が近づいて来たためあわてて宝物を抱き上げた、といった風情だった。まあ、そう警戒されても仕方のない濡れ鼠の私であったが、無垢な瞳は私の《善》を見抜き、好意を寄せてくれたのである . . . 本文を読む
香川県は、47都道府県の中で面積が最も小さな県なのだそうだ。だからというわけではないが、私にとって最後に残った未踏の地であった。高松に行く用ができ、好機とばかり讃岐路を巡ろうと考えた。調べてみると、小さな県だが見どころは多い。東の屋島か西の金比羅さまか、迷ったあげく西を目指した。面積が狭いということは訪ねる者には都合がいいもので、ローカル列車にのんびり揺られていると、1時間足らずで琴平に着いた。 . . . 本文を読む
地域おこしの優等生、湖北の城下町・長浜は、浜ちりめんに子供歌舞伎や曳山と、伝統文化が程よく残された街並みに、ガラスの殿堂・黒壁館といった若い女性を惹き付けるランドマークが調和して、休日に行き当たるとびっくりするほどの観光客でにぎわっている。しかしそうした人の波は日暮れとともに潮が引くもので、帰り遅れた旅人は取り残され、寂しさを囲うことになる。琵琶湖の残照は、その虚脱感を少し癒してくれるけど・・・ . . . 本文を読む
記憶が薄れる前に書いておかなければならない。高知の中村市のことだ。いまは市町村合併で「四万十市」を名乗る街だが、私には「中村」の方が分かりがいい。黒潮町での所用を終えて高知市に戻る際に、少し逆方向に足を延ばして立ち寄ったのである。「柳の葉のような小さな街」だと何かに書かれていた記憶があるが、数時間の寄り道をした旅人にとっては、とても歩き切れたものではない。清流・四万十川は、街の西縁を南下していた . . . 本文を読む