今日は、この街にいます。

昨日の街は、懐かしい記憶になった。そして・・

880 ポートランド③【アメリカ】

2019-08-02 06:00:00 | 海外
街の西側に延びる丘陵に「ポートランド日本庭園」がある。動物園や博物館、バラ園などがあるワシントンパークの一角で、市街地が一望できる急峻な丘を伐り拓いて造園されている。池に枯山水に坪庭と、なかなか本格的な日本庭園だ。向かいのバラ園では賑やかなイベントが開催中のようだが、こちらの庭園を目指す人も結構いる。様々な肌の色をした人たちが入園料を支払っていることが、日本人としては嬉しい。



設計したのは戸野琢磨という、日本と米国で活躍した造園家だ。ポートランドは1958年、札幌市と姉妹都市になったことから、地元財界やオレゴン州日本人会らの間で日本庭園の造成機運が高まった。戸野は適地選定から4年をかけ、ここに12エーカーの日本の伝統的庭園を造成、1967年に開園した。門や茶室など、建造物も本格的だ。八つ橋が架けられた池は菖蒲が見ごろで、薄紫の凛々しい姿を見せている。



しかし来園者の興味はほとんどが池のニシキゴイにあるようで、視線は「花より鯉」である。最近は海外での錦鯉養殖や盆栽が人気だと聞くが、熱心に見ている人たちはそうしたマニアなのだろうか。枯山水に面した濡れ縁に座り込む人たちは、岩と砂利で表現された水の流れを不思議そうに眺めている。実によく作られた庭園だが、植生の違いは如何ともし難い。日本では育ちようもない巨木が、いささか興趣を殺ぐ。



Ainu and Native American Woodcarvingというコーナーがあり、アイヌと北米先住民の作品を展示している。眺める人誰もが、その類似性と独創性に驚いている。庭園は民間の非営利団体が運営しているということで、日本人(あるいは日系米国人)を含んだスタッフが、「庭守」と染め抜いた揃いの半被でガイドなどに当たっている。こうした活動が、日本と日本人を知ってもらうのにどれほど役立っていることか。



壁には「戦後の米日間の軋轢が癒されつつある今日、この庭は、ポートランドと姉妹都市・札幌の市民が、文化交流は平和に貢献する、という共通の信念から生まれた」といった言葉が掲げられている。北米には300を超す日本庭園があるそうだが、そうした中でこの庭は、最も優れていると日本の作庭専門家らに折紙を付けられているらしい。「庭守」たちも守り甲斐があろう。いつまでも頑張っていただきたいものだ。





家族連れやカップルで賑わう休日のウィラメット河畔で、少女の寂しげな視線と目が合った。Japanese American Historical Plazaでのことだ。緑地にレリーフや石碑が点在している。第2次世界大戦での、日系アメリカ人が受けた理不尽な強制収容を忘れないための場だ。少女はそのモニュメントの中にいる。石碑の一つには《Sure, I go to school Same as you. Im an American.》と刻まれている。陽光が一瞬翳った。



晴れているのに広場で傘をさしている紳士がいる。足元のプレートに《Allow Me》とあるブロンズ像だ。ここも雨が多い街のようだから、そのことに関係があるのだろうか。ポートランドは「いい街だよ」と友人が教えてくれた通りだった。そんな気分になる秘密は、都市景観や気象条件以上に、市民が「街づくり」に積極的に参加している、その気運にあるのだろうと、短期滞在の視点ながら私は納得した。(2019.6.29-7.2)


























































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