徳島は総じて地味な土地柄だ。阿波踊りという、日本屈指の文化があるとはいえ、それ以外ではあまり全国的なニュースが発信されることはない。街の規模も人口27万人とささやかなもので、県庁所在の地方都市としては下から数えた方が早い。しかし今回再訪して、この街には大きなキャッチフレーズがあることに気づいた。《日本一空が広い街》である。吉野川の河口に広がる街は、その川幅によって広大な空間が確保されているのだ。 . . . 本文を読む
暮れもだいぶ押し迫っているというのに、乾いた陽が燦々と降り注ぎ、微かな川風がむしろ心地よい。高校生の下校時に重なって、遊歩道のような土手で男女それぞれの生徒たちに巻き込まれる。自転車の一団に進路を譲ると「すみませーん、ありがとうございまーす」とかわいい挨拶が通り過ぎて行く。遠い上流部の山の端には白雲が浮かんで、これではまるで《青い山脈》ではないか。私は四国・吉野川の中流域、徳島県脇町にいる。
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高知の街を歩くのは2度目だが、まだ城には登っていなかった。そこで今回は早起きし、朝の高知城を訪ねてみる。快晴の空に残月が懸かり、冷えた暮れの空気の中で見上げる天守閣は心地よかった。規模は大きくないものの、粗削りな石垣や石段が往時の空気をよく伝えている。そして何より、城が市民生活に溶け込んでいることが微笑ましい。大手門から次々と自転車が出て来るのは、城内が通勤路になっているからなのだ。
門を潜る . . . 本文を読む
5年ぶりの上海は、土ぼこりに霞んでいた。道路、ビル、地下鉄と、どこに行っても建設工事である。米国発の世界同時不況は、この沸騰都市にも打撃を与え始めているようだが、2010年の万博開催を目指し上海は再開発の熱病の中にある。しかしその一方で相変わらずの「中国」だ。人々のマナーは悪く、街は不潔で浮浪者・物乞いが目立つ。次なるステージを目指し、中国はいま、のた打ち回っている。その象徴が上海なのだろう。
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奄美大島で虹を見た。3日間滞在して、3日とも見た。何しろ空模様はクルクル変わる。雲が切れて、強い日が差してきたかと思うと、間もなくパラパラと雨が落ちて来て、おや、これは困ったと思案する暇もなく、また日が差し込んで来る。そして気がつくと、島の地平に見事な虹が架かっているのだ。「虹がきれいですね」と興奮して話しかけると、島人は「冬はだいたいこんな具合さ」と素っ気ない。何という贅沢か!
冬場はオフシ . . . 本文を読む
土佐は森の国である。確かに黒潮洗う勇壮な海の国ではあるけれど、海沿いのわずかな平坦部を除けば、あとは延々と森が覆っている。東京から小さなプロペラ機に乗って、龍馬空港に降り立とうとしてそのことがよく分かった。山地の比率は80%を超えているらしい。おそらく、全国有数の森林密度であろう。その森を通過して来る川は清い。高知市の西隣り、いの町を流れ下る仁淀川も、そうした清流の一つである。
いの町は、土佐 . . . 本文を読む