今日は、この街にいます。

昨日の街は、懐かしい記憶になった。そして・・

973 田野畑(岩手県)津波去り金色の月光海に道

2021-09-26 08:52:38 | 岩手・宮城
美しい風景を愛でたくて旅を繰り返しているわけではないのだけれど、たまにそうした出会いはあるものだ。だとしたら、せっかく写し撮った1枚を、確実に私のハードディスクに留めることにしようと、写真から記憶を遡らせ、原稿を成そうと頑張ってみることがある。今回のそれは東日本大震災から4年になる数日前の、岩手県下閉伊郡田野畑村羅賀の海辺のホテルから望む、午後11時40分の月である。私は7階のベランダから眺めている。 . . . 本文を読む
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952 大崎(宮城県)ササニシキ宝の稔り大崎耕土

2021-07-02 13:40:23 | 岩手・宮城
東北地方も梅雨に入ったことは、昨日の相馬で遭った驟雨で思い知らされたけれど、仙台経由で古川から陸羽東線に乗り継いだころには空は青く晴れ上がり、白雲の湧き昇る様子はもはや夏である。私は宮城県北部の奥羽山脈を、ひたすら西へ分け入っているのだが、人生古希を過ぎてなお、日本列島で知らない土地は多く、古川から山形県の新庄に向かうこの界隈も初めてである。そもそも通過している「大崎市」という街の名に馴染みがない。 . . . 本文を読む
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800 仙台(宮城県)よく生きるフィンランド流の心地良さ

2017-12-05 21:29:40 | 岩手・宮城
仙台に着くと、まず出向いたのは宮城県美術館である。フィンランド・デザイン展が開催中なのだ。フィンランド独立100周年を記念して全国を巡回してきた展覧会の、これが最終展になる。常々主な美術館の企画はチェックしているつもりだったのだが、なぜかこの巡回展は気がつかずにいて、北欧の旅から帰って知ったのは、東京展が終わった翌日という間の悪さだった。だがそのおかげで、仙台へ旅するきっかけができたともいえる。 . . . 本文を読む
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799 一関(岩手)照柿に支藩の昔思い出す

2017-12-03 21:08:33 | 岩手・宮城
柿はさほど好みの果実ではないのだけれど、その色はまことに美しいと、季節が廻るたびに思う。一関の街なかで、軒に柿を吊るしている茅葺家に出会う。晩秋の日差しをいっぱいに浴びて、柿は艶やかに照り返り、土壁にくっきりと影を映している。一関藩家老職の沼田家屋敷跡だという。素朴な門の内に小さな庭が造られてはいるものの、内部はやや豊かな農家の風情。支藩とはいえ三万石を領しながら、その家老屋敷は実に質素である。 . . . 本文を読む
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798 盛岡(岩手)岩手山イーハトーブに輝けり

2017-12-01 13:28:17 | 岩手・宮城
早朝5時過ぎに目が覚めた。盛岡・北上川畔のホテルである。カーテンの隙間から覗く街はまだ真っ暗なので、昨日眺めた岩手山の堂々たる姿を、ベッドの中で思い出してみる。今日もよく晴れると予報は伝えていたから、盛岡の街から望む岩手山は、朝日を正面から浴びるはずだ。だとすれば、白銀の山塊がピンクに輝く瞬間があるかもしれない。そう思い付いて身支度を始める。日の出は東京より少し遅いらしいから、6時半ころだろうか。 . . . 本文を読む
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631 宮古(岩手県)開港し400年の夢の跡

2015-03-18 17:08:35 | 岩手・宮城
宮古とはどんな街だろう。40年も昔のことになるが、盛岡に出張した折り、宮古に駐在する先輩がたくさんの海の幸を担いでやって来てくれて、「地方は面白いぞ」と気炎を吐いた。それ以来、宮古は関心のある街になったのだが、訪れる機会がないまま津波被害を耳にすることになった。今度の北三陸の旅の終着として、宮古の駅に降りた。盛岡行きの列車まで3時間ある。案内所で市街地図を入手し、中心商店街らしき通りに向かった。 . . . 本文を読む
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630 田老(岩手県)何度目の津波だろうか生き抜いて

2015-03-18 13:53:48 | 岩手・宮城
三陸鉄道の田老駅は、入り江を囲む街の後背地にある。高台だから津波もここまでは達しなかったというが、ホームから東の街並みはすべて波にさらわれ、海まで遮るものはなくなった。その海に向かって、幼児がしきりに「じいじいー」と呼びかけている。あたかも海で被災した祖父を偲んでいるかのような光景だが、聞けばそうではなく、里帰りした母子を迎えに来るジィジィが、大漁なのだろうか、海からの戻りが遅れているのだという。 . . . 本文を読む
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629 久慈(岩手県)はるばると琥珀の軽さ確かめに

2015-03-18 11:08:19 | 岩手・宮城
「三陸海岸」が始まる八戸から、ローカル線を乗り降りしながら南へ、海と松林とトンネルと、そしてたまに現れる小さな集落を通り過ぎながらやって来た久慈は、ずいぶん大きな街のように見えた。私の眼が都市に飢えていたのだろう、街を歩いて間もなく「そうではない」ことに気づかされた。街の疲弊は隠しようもなく、地震の傷も未だ重苦しく漂っているようである。しかしそんななかでも、とびっきりの笑顔に出会える私は幸せだ。 . . . 本文を読む
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625 二戸(岩手県)雪原で地球の磁場を考える

2015-03-14 13:18:45 | 岩手・宮城
「ここからご覧ください」と書かれた足のマークに立って窓外を眺めると、等間隔に並んでいるだけだった白い柱列がぴたりと繋がり、穏やかな老人の顔が浮かび上がった。ここは岩手県北部の二戸市。春の雪が残る広場で微笑む老人は明治の物理学者・田中館愛橘博士だ。そしてこの騙し絵的像の作者は、数々のデザインで知られる福田繁雄氏。いずれもこの北辺の街に生まれ、世界で活躍した方だ。私はその記念館を独り占めしている。 . . . 本文を読む
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550 網張(岩手県)高原で東北の宇宙見晴るかす

2013-12-11 14:18:02 | 岩手・宮城
網張という温泉郷が、東北ではよく知られた湯なのかどうかは知らないけれど、小岩井牧場を抜け、岩木山の南麓をひたすら登って着いたそこは、雄大な景観と山の冷気が心地よい高原だった。自動車道の終わりに休暇村という殺風景な宿が1棟だけあって、そこから先はスキー場のリフトが更なる高見に通じているのだった。旅の終わりは温泉で足を伸ばしたいと、盛岡のホテルをキャンセルしてやって来た甲斐があったようである。 . . . 本文を読む
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549 盛岡(岩手県)よ市にてホームスパンを紡いだぞ

2013-12-11 13:14:26 | 岩手・宮城
今度の旅の目的の一つに買い物があった。ホームスパンのコート地を見つけることである。岩手では、かつて英国の宣教師が伝えたホームスパンの手紡ぎが守られ、いまでは本場スコットランドでも消えかけている技術が伝承されているというのだ。どこかおとぎ話のような、それでいて東北人の粘り強さを黙々と示しているような物語を伝え聞いて、私はすっかり感動した。そこでこの際、コートを新調しようと思い立ったのである。 . . . 本文を読む
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548 花巻(岩手県)今もなお下ノ畑に賢治居り

2013-12-11 10:25:39 | 岩手・宮城
宮沢賢治という人格は、故郷によって形成された比重が大きいというから、花巻は行ってみたい街だった。丘の上の賢治記念館から西方を望むと、北上川がゆったりと流れ下って来て、その向こうに花巻の市街が霞んでいる。おそらく賢治は、私がいま眺めているこの風景の中で、人生の最も濃密な時間を生きたのだろう。「土地(街)と人間(才能)には強い関連がある」という前提に立てば、花巻は無二の人格を育んだ街ということになる。 . . . 本文を読む
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547 釜石(岩手県)必ずや新しい街生まれ来る

2013-12-10 21:13:21 | 岩手・宮城
早朝の釜石市街を歩いた。連れ立って散歩をする老夫婦、軽々とジョギングして行く中年の男性。1時間ほど歩いて、出会ったのはその3人だけだった。震災3ヶ月後に訪れた釜石は、倒れかけたビルや屋根に乗り上げた車の残骸など惨憺たる状況だったが、それから2年、瓦礫はすべて撤去され、家屋の多くも取り壊されて、中心商店街は巨大な空き地になっている。人々は仮設住宅に移ったか、この街を諦めて、出て行ったのだろう。 . . . 本文を読む
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546 南三陸(宮城県)ひたすらに南三陸北上す

2013-12-10 15:28:08 | 岩手・宮城
町民に避難を呼びかけ続け、自らは逃げる暇なく津波に飲まれて行った南三陸町防災センターの女性職員のことは、大震災の中でひときわ感動を呼んだ悲しい話である。石巻から峠を越えると緩い下り坂が続き、ようやく海が見えたところに小さな街の「跡」が広がっていた。旧志津川町の中心部だろうか、津波による瓦礫は片付けられ、造成中の工業団地のような風景の中に、赤い骨組みだけになった防災庁舎がぽつんと残っていた。 . . . 本文を読む
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545 牡鹿(宮城県)余りにも海静かなり牡鹿にて

2013-12-09 22:32:22 | 岩手・宮城
三陸海岸の「三陸」は、戊辰戦争後に陸奥国が陸奥・陸中・陸前と3分割された後に、三つの「陸」を合わせる地域表現として呼ばれるようになったのだということを、今回の旅を機に初めて知った。そしてその海岸線は、北上山地が海に落ちる青森県八戸市の南部から、牡鹿半島の石巻湾側の付け根・万石浦までの約600kmを指すことが一般的なのだということも。私たちはその三陸海岸南端を、溜め息をつきつつドライブしている。 . . . 本文を読む
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