今日は、この街にいます。

昨日の街は、懐かしい記憶になった。そして・・

511 天草(熊本県)島だって橋で繋げば半島だ

2013-04-26 15:29:10 | 熊本・鹿児島
おそらく戦前までのことであろうが、天草の食料事情を土地の人は「ネタクリカンチョにイワシのシャーレ」と表現したそうだ。これは「練った甘藷とイワシのおかず」のことだと、宮本常一編『島』で杉本尚雄という人が書いている。アマクサなる牧歌的な響きとは裏腹に、離島の暮らしは厳しいものだったのだろう。不知火の海を眺めているうちに、わずかでもその土を踏んでみようと思い立ち、天草五橋を渡って千巌山に登った。 . . . 本文を読む
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510 渋谷(東京都)駅ができ工事は続くどこまでも

2013-04-24 11:15:01 | 東京(区部)
渋谷駅が大改造されたというので探検に出かけた。物見高さはいくつになっても治まらないらしい。18歳になる春、受験のため東京に出て来た私は「国電」渋谷駅で東横線に乗り換え、先輩の下宿に転がり込んだ。以来49年、あの東横線が地下に潜り、地下鉄に繋がって池袋を経由、埼玉の川越まで一直線になったというのだから「大改造」である。御用済みとなった東横線の旧渋谷駅は、早くも廃墟のようなくすみを帯び始めていた。 . . . 本文を読む
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509 鶴見(神奈川県)読経と工場の音交差して

2013-04-22 13:47:56 | 埼玉・神奈川
古い友人と久しぶりに会うことになった。彼は鶴見の住人なので、私が鶴見に出向くことにした。横浜には縁が濃いくせに、鶴見という街は通過するだけで立ち寄ったことがない。いい機会だから落ち合う前に街歩きをしてみようと考えたのだ。彼は「何にもない街だぞ」と言ったけれど、確かに思いのほか地味な街だった。それでも総持寺の広い境内を散歩したり、レトロな電車に乗って工場街を眺めていると、飽きることはなかった。 . . . 本文を読む
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508 大分(大分県)街づくりまずは子育て支援して

2013-04-20 22:13:58 | 大分・宮崎
縁の薄い街、というものがあるかどうか知らないけれど、大分市はこれまで2度ほど来ているのだがゆっくり街を見たことがない。どこかに向かう途中だったのか、あるいは所用を済ませてすぐに帰らなければならなかったのか、とにかく縁が薄いのである。こんども薩摩―肥後―豊後と旅をして来て、大分空港から帰路に就くまでの時間潰しなのである。せめて中心部だけでもと、別府大分毎日マラソンでちらりと映る城跡に立ち寄った。 . . . 本文を読む
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507 臼杵(大分県)拙くも優雅にも見え岩仏

2013-04-20 15:05:15 | 大分・宮崎
若い女性二人が熱心に祈っている。臼杵石仏群の古園石仏中尊・大日如来像である。信仰心の薄い私は、仏像に向き合っても手を合わせるという衝動はめったに起きない。特に磨崖仏は、仏さまというより彫像物としての関心が先に立つものだから、つい無遠慮に観察してしまう。しかし女性たちのひたむきな姿を見ていると、なるほど、ここはこうあるべき空間なのだと思う。阿蘇の温泉郷から豊後へと下って来て、海はもう近いはずだ。 . . . 本文を読む
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506 竹田(大分県)時は過ぎ春高楼に風渡る

2013-04-19 09:46:46 | 大分・宮崎
昨日まで童謡を歌っていた幼児が、突然大人っぽい歌に接して戸惑ったというのが、私の『荒城の月』体験である。朗々として静謐なメロディーは子ども心にも心地よいものだったが、歌詞の意味はチンプンカンプンだった。作曲した瀧廉太郎という名前は響きがいいからすぐに憶えた。作詞が土井晩翠であることは、かなり後になって知った。豊後・竹田の岡城址にやって来て、催して来る感慨はその程度なのだから情けない。 . . . 本文を読む
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505 日田(大分県)天領で楕円の定理解き明かす

2013-04-18 08:06:05 | 大分・宮崎
楕円とは「二つの定点(焦点)からの距離の和が一定である図形」を言う。仮に大胆にも「九州島」を大きな楕円であるとしよう。南北に長いこの楕円の面積は、オランダ1国とほぼ同じである。その中心で噴煙を上げているのが阿蘇だ(とする)。では二つの焦点はどこにあるだろうか? 九州とは縁の薄い私がこの楕円を思い浮かべると、北の焦点は大分県日田市、南のそれは熊本県人吉市がちゃんと担っている気がするのだが。 . . . 本文を読む
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504 小国(熊本県)山里に湯煙浴びて鯉のぼり

2013-04-16 17:25:17 | 熊本・鹿児島
坂本善三(1911-1987)という画家がいる。熊本県北奥の小国町に生まれ、東京―パリと活動の場を広げながらも、制作の軸はいつも阿蘇の大地に置いた画家である。戦後の抽象絵画で作家の位置を固めたけれど、世俗的な意味での有名画家というわけではない。没後、郷里に「坂本善三美術館」が建てられた。「行ってみたい」と思い続けているといつかは実現するものらしく、山を越えてやって来た私は、座敷で作品と向かい合っている。 . . . 本文を読む
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503 阿蘇(熊本県)轟々と地球のつぶやき噴き上がり

2013-04-15 22:31:52 | 熊本・鹿児島
阿蘇に登ることにはいささか感慨があった。熊襲の地を「火国」と呼ばせた山とはいかなる巨魁か、対面する日をずっと楽しみにして来たのだ。しかし結論を先に述べると、期待はずれの拍子抜けという始末だった。つまらないとか、来たことを後悔したわけではないのだけれど、想念が膨らみ過ぎていたのか、あるいは火口まで車で乗り入れるという横着が祟ったか、山の霊気に触れたといった厳粛な気分には至らなかったのである。 . . . 本文を読む
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502 白水(熊本県)天空の花とミルクと外輪山

2013-04-14 17:32:13 | 熊本・鹿児島
春が近づくと飾る絵がある。群青が翠色と交わる空を背景に、画面の大半を満開の桜が埋めている。そこから無数の花びらが放たれ、下部に漂う深いブルーへと散って行く。作者はこれを「阿蘇の水源に咲いていた桜です」と言った。「眺めていたら風が吹いて来て、花びらが空を埋めるように舞ったのです」とも付け加えた。夢中で描き『天空の花』と名付けた。同じ場所かどうか、私もいま阿蘇にいて、大きな桜を前に外輪山を眺めている。 . . . 本文を読む
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501 五木(熊本県)私とて盆が早よ来りゃ早よ戻る

2013-04-13 21:59:14 | 熊本・鹿児島
九州の地図を眺めていて、人吉からまっすぐ北上する道の先に「五木」と「五家荘」があることを知った。子守唄と、平家の落人伝説が思い浮かぶ里である。私のイメージではいずれも秘境中の秘境のはずだ。訪ねてみたいけれど、無事に帰って来られるだろうかという思いも湧く。そこで五木村観光協会を探し、電話で問い合わせてみる。「普通の車で行けるでしょうか?」。対応に出た女性は「大丈夫ですよ」と言ってホッホと笑った。 . . . 本文を読む
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500 人吉(熊本県)球磨川の瀬音に目覚め人は善し

2013-04-13 11:00:14 | 熊本・鹿児島
夜通し驟雨が続いたのだなと思いつつ目が覚めた。肥後・人吉の朝である。本降りになったに違いないと窓を開けると、それは眼下の球磨川の瀬音なのだった。ホテル最上階の部屋まで届くほど、急流はせめぎ合い響いている。橋を行く人は傘を差しているものの雨脚は微かで、対岸の城跡は靄に包まれている。仲居さんは「大雨になると、その中洲も流れに埋まってしまいます」と事も無げに言ったけれど、それは恐ろしい光景であろう。 . . . 本文を読む
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499 美山(鹿児島県)異境にて土を焼きつつ400年

2013-04-06 22:31:11 | 熊本・鹿児島
薩摩焼はどうも苦手だ。特に白薩摩の、ヌメッとした肌と細やか過ぎる細工、繊細な絵付けは、私には体質的に合わないようだ。確かに超絶した技法の裏付けがあり、絶賛されて不思議ではないけれど、私にとってそれは、薩摩人がキビナゴと薩摩揚げの郷土料理こそが至上のご馳走だと自慢し、奨めてくれる際に味わされる気分に似ている。ただ沈壽官窯には行ってみたかった。15代も続く朝鮮陶工の窯場を、見てみたかったのである。 . . . 本文を読む
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498 鹿児島(鹿児島県)噴煙を今日も噴き上げ桜島

2013-04-05 16:48:05 | 熊本・鹿児島
日本で絵に描かれた山は、おそらく富士山が最も多いのだろうが、錦江湾に浮かぶ桜島も、画家の魂を激しく揺らす姿なのだと思われる。私もかつて、城山に建つホテルから初めてこの山を観て、気持ちが高鳴った経験を持つものだから、そうした画家の衝動は理解できる気がする。だからもう一度、心ゆくまで眺めてみたいと長いこと思い続けて来た。鹿児島市内に着いたのは午後もいささか遅くなっていたから、急いで城山に登った。 . . . 本文を読む
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497 枕崎(鹿児島県)南端の街を元気に体操帽

2013-04-04 17:29:58 | 熊本・鹿児島
交差点を制服姿の小学生が渡って行く。男子は半ズボンと、体操帽の白い側を出して被ることが規則なのかもしれない。今日は「修了式」で、明日から春休みになるらしい。私らの時代は「終業式」といったものだが、何が違うのだろう。ただ休暇に突入する子供たちが、楽しくてたまらないとじゃれ合っている姿は、半世紀以上昔の私と変わらない。ここは枕崎。九州最南端の街で、懐かしい自分を眺めている自分が不思議である。 . . . 本文を読む
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