新潟市の西郊に《小針》という地域がある。日本海を隔てる砂丘と、信濃川まで続く水田地帯の一部を、市の中心部からあふれ出た人口がジワジワと浸食して造った住宅地である。その一角に、母が小さな家を建てたのは1962年だった。地方都市にも、マイホーム時代が到来していた。それから50余年。相続後も家と土地を維持して来た私は、売却を決めた。そのことが私を、思いがけない感傷に追い込んだのである。 . . . 本文を読む
友人が運転するSUVは、信濃川に沿って南へ下っている。久しぶりに新潟に帰郷した私を、田上町にある温泉宿へ案内してくれようというのだ。川は田植えを終えた平野を潤して、なお豊かに黒々と河口へと向かっている。時おり堤の下に現れる集落は、水面より低いのではないだろうか。大河の恵みと恐ろしさのなかで、愚直に米作りを続けて来た蒲原の農民たち。私の先祖も、その中の一群れであったに違いない。 . . . 本文を読む