今日は、この街にいます。

昨日の街は、懐かしい記憶になった。そして・・

883 ヨセミテ【アメリカ】

2019-08-11 10:27:52 | 海外
私たちは米国・ヨセミテ国立公園のグレイーシャー・ポイントに登り、渓谷を挟んだ向こうの山に屹立する「ハーフ・ドーム」を望んでいる。自然の創造にしてはいかにも奇妙な岩球が、真っ二つに裂かれた姿でそそり立っている。それも紺青の空を従えての標高2693メートルの峰である。あまりに巨大で剥き出しの自然に対峙していると、迫ってくるのは「美しい」などを超えた、圧倒的な「自己の卑小さ」である。



北米大陸西縁には、カナダから南下して来るカスケード山脈(全長1000km)と、それを引き継いで南へと続くシエラネバダ山脈(650km)が、大きな背骨のように延びている。シエラネバダの中央部に広がるヨセミテ国立公園は、東京都の1.5倍の面積なのだとか。グレイーシャー・ポイント(標高2199m)はヨセミテ渓谷の南壁上のテラスで、ハーフ・ドームと向き合うヨセミテ最大のビューポイントなのである。



オリンダから4時間余のドライブをして渓谷を遡った私たちは、次々に現れる巨岩に圧倒され、その裂け目から流れ落ちる滝に目を奪われている。その一つ一つに美しい名称がつけられた滝のうち、ブライダルベール滝では飛沫を浴びる滝壺に接近した。独立記念日の連休だからだろう、人出は大変なもので、誰もが大自然に分け入った興奮を隠せないでいる。それにしてもこの大量の水は、どこからやって来るのだろうか。



地球の生成は様々な景観を生み出したけれど、ハーフ・ドームもそうした奇観の一つである。私のパソコンに設定されている待ち受け画面がこの景観であることを、ここに来るまで気づかなかった。これほどの絶壁があれば登りたくなる人は多いはずで、この日もドーム背後のケーブル・ルートは蟻の行列であるに違いない。グレイーシャー・ポイントからシエラネバダの大眺望を見渡し、膨大な「水」の出所が理解できた。



ヨセミテ渓谷は1851年、西部へ進軍してきた政府軍により「発見」された。ネイティブ・アメリカンと軍の激突は、「マリポサ戦争」として米国開拓史に刻まれている。私たちは公園南端のマリポサという街に宿泊した。山間の小さな街とはこうしたものかと、都会を駆け足で通過しがちな旅行者としては興味深い体験だった。そして翌日は、ジャイアントセコイアが天を衝く古代の森、マリポサ・グローブを歩いた。



今シーズンは春の雨量が多かったということで、河も滝も例年以上に水量豊富で、われわれはラッキーな見物客らしい。ジャイアントセコイアは樹高が80メートルを超し、日本の森には見られない巨大な空間を形成している。樹齢は1000年を軽く超えるというから、とても太刀打ち出来る相手ではない。しかしところどころに巨木が倒れ、黒焦げの木々が立ち枯れているのは、毎年のように襲われる山火事の傷跡だ。



マリポサ・グローブの空気のうまさは格別である。「美味しかった空気」といえば、北海道サロマ湖畔のワッカ原生花園を思い出す。湿気を含んだ重い空気中に、海浜性の花々の香りがほのかに漂っていた。マリポサ・グローブに匂いは無い。世の汚染物質も、ここまでは届かない。乾いた軽い大気に包まれて、私は「太古、地球はこうであった」と考える。そして自身は、スギ花粉の粒子になった気分で漂う。(2019.7.3-4)





















































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