「宇奈月」ではあるけれど、私は温泉に浸かりに来たわけではない。宇奈月温泉郷から黒部川を遡る黒部渓谷鉄道に乗って、国内有数だと言われる水力電源開発の歴史を実感したいとやって来たのだ。「80歳の壁」が見え隠れする年齢になって「何をいまさら」と思わないでもないけれど、この列島にドンと居座る北アルプスの巨大山塊に未だ脚を踏み入れたことがない、ということもいささか心残りになって、トロッコ電車に乗り込んだのである。
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山辺の道を南に辿る時、巨大な前方後円墳群を経て穴師山と三輪山を分かつ巻向川の細い流れを渡るころには、深閑とした森の傍を檜原神社に近づく道が延びて、晴れ晴れとした眺めに疲れを癒されるのが常である。だから私も「纒向(まきむく)」という土地の名は馴染みが深く、檜原社から箸墓へ坂を下ったこともある。ただ日本史において、これほどただならぬ土地であるとは思い至らなかった。「纒向遺跡」の発掘調査が明らかにしつつある。
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橿原市は大和盆地の南部にあって、人口12万人の奈良県第2の街だ。京都―奈良―和歌山を結ぶ近畿圏の大動脈・国道24号線が南北に通じ、JR桜井線とともに近鉄の大阪線と橿原線が直交するという、鉄道網も発達した現代交通の要の街である。「交通の要」というこの街の特色は、古代から続く立地で、現代の国道や鉄道は、7世紀ころの大和盆地に整備された「下つ道」や、日本書紀の言う「自難波至京置大道」にぴたりと重なるのである。 . . . 本文を読む