日傘を差したおばあさんが、曲がった腰を精いっぱい延ばして歩いて行く。背景はヒマワリが埋め尽くし「幸せいっぱいのひまわりウエディング♡津南」とある。笑顔の若者らが新郎新婦を取り囲んで、まことに賑やかなポスターである。だが津南町の昼下がり、メインストリートらしい国道117号線の商店街を動く人影は、日傘のおばあさんと、道路の向かい側からそれを眺めている私だけ、である。そして時おり車が走り去る。 . . . 本文を読む
日本は国土の73%が「山地」である。山地の定義がいまひとつ不明なのだが、とにかくわれわれは、平地はごくわずかしか無い山だらけの列島で暮らしているということだ。手元に、衛星写真を立体化した日本列島の俯瞰図がある。なるほど、北海道や北上、紀伊、四国と、山だらけだ。なかでも最も広大な山地の広がりは、上信越から飛騨にかけての本州中心域だ。越後妻有(つまり)は、その北辺のほんのわずかな川筋あたりにある。 . . . 本文を読む
晩夏の街に漂う気分は、祭りが終わった後の虚脱感に似ている。そんな雰囲気が暮れなずむ街灯りでいっそう濃くなっている商店街を歩いていたら、「ここに深雪観音堂ありき」という碑が建っていた。1938年(昭和13年)の元日の夜、満席の映画館が雪の重さでつぶれ、死者69名、負傷者92名という惨事が起きたのだという。慰霊の堂が建てられ、そして老朽化のためお堂が解体されるにあたり、遺族会が建立した碑なのだった。 . . . 本文を読む
「長者ケ原」だなんて、日本昔話に出て来そうな名前だけれど、考古学を齧った者にとっては、縄文時代中期を代表する「あこがれの」集落遺跡なのだ。しかし齧ってから半世紀近くも経ってしまうと、もともと根の浅い知識だけに、遺跡地が糸魚川市の郊外だったことはトンと失念していた。いまは公園として整備され、考古館に隣接してフォッサマグナミュージアムも建っているという。太古へタイムスリップしてみることにした。 . . . 本文を読む
「風の盆」から「大地の芸術祭」に移動する際、その中間あたりに位置する糸魚川に立ち寄った。2年半後に開通する北陸新幹線が停車する糸魚川駅は、現駅舎を睥睨するかのように高架が組まれ、工事は着々と進行している。駅は今年が開業100年にあたるそうで、正面の北口側も大改装中であった。だから街は100年に一度の大興奮の渦中かと思ったのだが人影は薄く、玉を掌に載せた奴奈川姫が、ポツンと陽を浴びているだけだった。 . . . 本文を読む