女性が一人、物思いに耽る水辺はエルベ川である。そして対岸に建つのはアルブレヒト城で、ヨーロッパで初めて白い磁器を焼くことに成功した錬金術師は、ザクセン王によってこの城に閉じ込められてしまった。莫大な富を産む磁器の製法を、他国に漏らさないためである。それが1709年のこと。佐賀の鍋島藩が陶工を大川内山に囲い、藩窯の技法を秘匿したのはその34年前のことだった。マイセンと有田はいま、姉妹都市である。 . . . 本文を読む
奇妙な博物館だった。ドレスデンの「ザクセン民芸博物館」という。建物自体、おとぎ話に出てきそうな古い館で、看板代わりに三階のバルコニーでピエロの人形が踊っている。展示の主体は人形だ。それもおばあちゃん手作りのような味わいある人形だ。どことなく不気味な展示室を廻ると、次第にザクセンという王国の特異な位置が分かったような気分になる。旅先で思いがけず出会った人形たちは、しばらく夢に出てきそうである。 . . . 本文を読む
姉と弟だろうか、ドレスデン・エルベ河畔のマーケットで、サクランボを並べて店番をしている二人に出会った。あんまりかわいいものだから、カメラを指差し「OK？」と訊くと、こちらを向いてうなづいてくれた。旅先ではいつも「蚤の市」に行くことを楽しみにしている。「お宝」に出くわすことはまずないけれど、生活臭にあふれた旅の記念が見つかるとうれしい。そして何よりも、土地の人たちの飾らない姿に接することができる。 . . . 本文を読む
