今日は、この街にいます。

昨日の街は、懐かしい記憶になった。そして・・

884 ナパ【アメリカ】

2019-11-10 08:52:19 | 海外
北米西海岸の旅から帰って4ヶ月になる。オリンダ滞在中に出向いたナパについても書いておこうと思いつつ筆が進まないでいると、隣接するソノマ郡で大規模な山火事が発生したというではないか。ソノマもナパ同様、カリフォルニアワインの主要産地である。熱で溶けたワインボトルを手に嘆くワイナリー経営者が痛々しい。数年前にはナパも山林火災で大打撃を被っている。火災はブドウ産地の宿命なのだろうか。



飲むのは好きだが詳しいわけではない。ワインのことだ。それでも米国のワイン産地はカリフォルニアに集中していて、なかでもナパヴァレーが名高いことは承知している。オリンダから石油コンビナートのような工業地帯が続くサンフランシスコ湾東岸を北上すると、1時間もしないでブドウ畑が広がり始める。ナパは「谷」というよりも、低くなだらかな丘陵に囲まれた小盆地だ。手塩にかけられたブドウ畑が美しい。



地球上の陸地で葡萄栽培に適した気候と土壌の土地は2%しかないのだそうで、400平方キロ程度のナパヴァレーのワイン用ブドウの作付け面積は仏ボルドーの6分の1だという。収量は全カリフォルニアの4%程度に過ぎない。つまりナパは極小産地なのである。ただ実に多様な土壌に恵まれ、ブドウは多品種かつ高品質であるらしい。ブドウ栽培が始まって180年、産地の地位を確立したのは第2次大戦後だ。



ワイナリーが日本の酒蔵と異なるのは、ブドウ畑の緑の中にあるということだろうか。私たちが訪れたワイナリーも、池が広がる庭園をアイビーの絡まる館が包んで、緑が実に濃い。そのうえこの醸造所は、オーナーが蒐集した現代美術のコレクションでも人気が高いらしく、まるで美術館のようでもある。私は「ワインとは、これほどの富をもたらすのか」と、そのコレクションを実現させた財力に圧倒されたのだった。



あまりに俗物的反応で、思い出すたびに恥ずかしくなるのだけれど、それほどコレクションの質量は高かった。西洋の歴史はワインとともに発展してきたようなものなのだから、人々を魅了するワインを提供できれば、これくらいの「富」が約束されても不思議はない、と頭では理解するものの、それにしても利益率が高すぎるのでは、などと情けない思いがつきまとって離れない。ワインをいただく前にすでに酔っている。



そしていよいよテイスティングである。4つのグラスが並び、それぞれに合うチーズを添えてあるという。ドキッとする赤ワインに出会う。どっしりと重いのである。それは初めて経験する、口の中が重くなる感覚だ。そして懐かしいような香りが広がる美味しさに、1本買い求めた。私より為替換算が素早い妻が言うには、家で飲んでいるワインが10本は買える値だという。私は易々とワイナリーの財に寄与したのだ。



奇跡のような土地でナパは今、開拓時代以来の汗の結晶を享受している。ただ気がかりな話を聞いた。地球温暖化の影響だろうか、ヨーロッパではワイン用ブドウ栽培の適地が北へと移動しているらしい。危機感を抱いたブルゴーニュのワイナリー主は世界中を調べ、ようやく見つけた土地は北海道の函館だったという。ナパにまでそんな危機が押し寄せなければいいと願うものだが、米国はパリ協定を離脱した。(2019.7.6)



















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