木漏れ日が松の長い影を下草に延ばしている。今日は冬至だというから、影は1年で最も長いのだろう。思い思いに延びた影と太い幹が、軽やかなリズムを刻む原を来るのは、これから《陶芸の道》を旅する私のパートナーである。焼物をはじめ、未知の土地に好奇心を寄せる彼女は運転を担当してくれる。黄花を咲かす足下の石蕗に気を配りながら「さあ、出発しましょうか」と言った。湿り気を含んだ《虹の松原》は芳しく、立ち去り難か . . . 本文を読む
夏目漱石の東京における「地名」を問われたら、あまり詳しくない私などは《千駄木》と《牛込》くらいしか思い浮かばない。千駄木は『猫』であり、牛込は生誕と終焉の地、そして旧牛込区早稲田南町の《漱石山房》だからである。その跡地が公園として整備されているというので出かけてみる。住宅街の入り組んだ路地から、丹前姿の苦沙弥先生が懐手をして現れそうな街の気配なのだが、漱石公園の殺風景さには唖然とさせられた。
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