今日は、この街にいます。

昨日の街は、懐かしい記憶になった。そして・・

889 出雲(島根県)遥かなり出雲八重垣土に生き

2019-11-28 06:00:00 | 鳥取・島根
晴れ渡る出雲平野に、日本海からの風が次々と雲を沸き立たせる。「八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに 八重垣作る その八重垣を」である。高天原から地上界に追放されたスサノヲが、辿り着いた出雲で八岐の大蛇を退治、土地の姫を娶って詠んだと古事記は云う。記録に残る日本最古の歌は、出雲が舞台なのである。宍道湖の北岸を出雲大社へ向かう我々の頭上でも、次々と雲が湧き、東方へ流れては途切れることがない。 . . . 本文を読む
コメント

888 松江(島根県)中海の広々とした空明日が満ち

2019-11-27 06:00:00 | 鳥取・島根
松江は私の好きな街だ。とはいえ暮らしぶりを何も知らない他所者が、軽々に「好き」などと言うのはおかしいのかも知れないが、宍道湖と中海の豊かな水と広い空、そして城下町の歴史が醸す気品ある静けさが好もしい。シンボルである松江城天守は、私の「要望」通り国宝に指定された。妻らへの案内もつい自慢めいた口調になるのは私の松江贔屓の現れだ。「さあ、この門を潜ると天守閣だ、その瞬間がいい」。ところが‥‥ . . . 本文を読む
コメント

887 安木(島根県)出雲族鋼鍛いて安来節

2019-11-26 10:47:02 | 鳥取・島根
台風の接近で、着陸できない場合は他空港に回避するとの条件付きで羽田を発った全日空機は、それでも無事に米子鬼太郎空港に着陸した。私たちは中海に沿って南下、台風一過の好天のもと、米子市を通過して島根県安来市に入る。街自体は人口3万8000人程度の鄙びた小都市だが、中海の南岸に港を抱き、日本海側を東西に結ぶ山陰道に沿って開ける立地は、出雲国の要地なのではないか。私の勘は的を射たようだ。 . . . 本文を読む
コメント (1)

645 益田(島根県)人麻呂の最期を看取る夕日かな

2015-05-07 09:50:10 | 鳥取・島根
正岡子規は『病牀六尺』にこんなことを書いている。「左千夫曰ふ柿本人麻呂は必ず肥えたる人にありてしならむ。節曰ふ余は人麻呂は必ず痩せたる人なり。人間はどこ迄も自己を標準として他に及ぼすものか」と。子規がもし元気に旅ができ、石見の益田にやって来ていたら、人麻呂は太っていたか痩せていたか、判定を下したことだろう。かの歌聖がこの地に生まれ没したのだとすると、「人麻呂は痩せていた」と、子規に代わって私が断言する。 . . . 本文を読む
コメント

634 津和野(島根県)日溜まりにアンペルマンの城下町

2015-04-20 16:15:19 | 鳥取・島根
山陰に行こうと思い立ち、いろいろプランを練っているうちに、山口路を廻ってみようということになった。なぜ山口なのかは説明が難しいが、滅多に行く機会がないから、という思いがあったのだろう。萩・石見空港から山口県をぐるっと回る計画で、島根県南部のその空港からは津和野を通って山口に向かうことになる。閑散とした地方空港だろうと想像していたら、行きも帰りも飛行機は満席だった。年度末、世間は慌ただしいのだろう。 . . . 本文を読む
コメント

538 米子(鳥取県)広々と歩道はあれど人みえず

2013-10-26 08:32:10 | 鳥取・島根
米子駅で友人たちに分かれ、私は羽田への最終便までの半日を米子散歩に当てることにした。駅の観光案内所で市内地図を入手し、中心部と思われる方角へ歩き始める。豪雨が去って猛烈な暑さである。木蔭を探すのだがビル街に真昼の陽を遮るものは乏しく、たちまち汗まみれになる。どこかおかしいと気が付いたのはしばらく歩いてからだ。人通りが無いのだ。道路は整備されているのに通る人がいない。いくら暑いといっても異様だ。 . . . 本文を読む
コメント

537 境港(鳥取県)妖怪とポーズをとって緊張す

2013-10-25 15:36:39 | 鳥取・島根
島根半島とは奇妙な形だと、かねがね思っていた。「半島」とは名ばかりで海に突き出すこともなく、長々と陸地を塞ぐカサブタのような形をしているからだ。古代人は地図を持たなかったけれど、空から大地を俯瞰した姿を想像する能力を備えていたのだろう。だからこの半島の形から「他所から土地を引き寄せて出雲の国を広げた」とする雄大な《国引き神話》を創作したに違いない。私たちはその引き綱の跡、弓ケ浜を北上している。 . . . 本文を読む
コメント

536 大山(鳥取県)悠然と聳える君は何者ぞ

2013-10-25 08:44:50 | 鳥取・島根
「彼は自分の精神も肉体も、今、此大きな自然の中に溶込んで行くのを感じた。その自然といふのは芥子粒程に小さい彼を無限の大きさで包んでゐる気体のやうな眼に感ぜられないものであるが、その中に溶けて行く、――それに還元される感じが言葉に表現できない程の快さであった」。これは『暗夜行路』の主人公が大山(だいせん)山中で力尽き、草叢で野宿する場面である。作者の気分には遠いものの、私たちも大山寺宿坊に泊まった。 . . . 本文を読む
コメント

535 倉吉(鳥取県)因幡から伯耆の国へゆるゆると

2013-10-24 17:51:56 | 鳥取・島根
鳥取に行く機会があったら、倉吉に立ち寄ってみたいと考えていた。その名からだろうか、しっとりとした佇まいの家並が続いている街に違いないと思い込んでいたかららしい。鳥取駅前のホテルを出ると、友人は車を西に向け、湖山池―白兎海岸―東郷池―倉吉と案内してくれた。鳥取市の千代川を渡ると田園の広がりが増し、海と湖水と稲穂が連続し始めた。道は国道9号線で、見え隠れしながら山陰本線が絡まるように並走している。 . . . 本文を読む
コメント

534 鳥取(鳥取県)地味だっていいのよ私女子高生

2013-10-23 15:08:26 | 鳥取・島根
真夏の昼下がり、制服姿の女子高生が写真を撮り合って笑い転げている。鳥取市のランドマーク・久松山の麓に建つ明治の洋館・仁風閣の前庭である。私はその2階から彼女たちを眺めている。私にとってこの街は「最後に残った県庁所在地」で、これで私は47都道府県の中心都市をすべて訪ねたことになる。だがそんなことで感慨に耽るのは年寄りの証明で、これから恋をし結婚し、母親となる少女たちにとって、人生は永遠なのである。 . . . 本文を読む
コメント

276 日御碕(島根県)・・・・遂に来て沈みの宮に詣でたり

2010-04-25 13:47:31 | 鳥取・島根
「ミサキ」は元来、海上に突き出した(あるいは海中に没して行く)大地の「サキ」に、人々が特別な地霊の存在を覚えて尊称の「ミ」を付け、呼んだ言葉なのだろう。そこは地の果てであり、未知の世界の始まりである。現代人にしてもそこに立てば、幾ばくかの感傷から逃れられない。より素朴な心を持つ古代の人々にとって、ミサキは恐ろしくも神聖な、神宿る土地であっただろう。私も岬を目指す時、気持ちは決まって高ぶるのである . . . 本文を読む
コメント

265 出雲(島根県)・・・天を衝くオオクニヌシの館なり

2010-01-26 20:14:24 | 鳥取・島根
呪力とは「超自然的・非人格的な力の観念」を意味するらしいが、響きだけで何やら呪力を感じる地名がある。例えば「出雲」あるいは「伊勢」「三輪」がそれだ。そして偶然か必然か、この3地点はあたかも日輪の運行ラインであるかのように同一線上にある。記紀神話や出雲国風土記の戯作者による、見事な「国産みマジック」だなぁ・・・などと、とりとめのない想念に囚われながら、私は出雲大社に向かうバスに揺られている。 出 . . . 本文を読む
コメント

260 松江(島根県)・・・落陽と向き合いて知る今日の意味

2010-01-18 12:31:30 | 鳥取・島根
しばらくは昼の名残りを保っていた蒼穹が、一気に黄金の輝きを増し、水面に光りのプロムナードを延ばして来た。「シナバー角度」とでも言おうか、光の屈折が、世界を朱に染める太陽の高度があるらしい。この絨毯を歩いて行ったら、どこに行き着くのだろうと、惚けたように眺めていた私は、いっとき自分がいる場を忘れた。私はいま、山陰の都城・松江にいて、宍道湖のほとりで落陽と向き合っている。 松江に到着するや、駅前の . . . 本文を読む
コメント

035 雲南(島根県)・・・新緑のたたらの里は燃え尽きて

2007-04-26 23:57:50 | 鳥取・島根
新緑の丘陵に向けて棚田が連なる高台に、集落が日を浴びて静まり返っている。「桃源郷」という言葉が浮かんで来る。それを口に出してしまえば、「山村の暮らしを知らない都会者めが」と顰蹙を買うであろうことは承知である。訪問者が抱く牧歌的イメージとは異なって、山間地の多くが過疎と高齢化の厳しい現実の中にあるからだ。出雲空港から車で1時間、ひたすら南下して来た私がいま立っているのは、島根県雲南市吉田町である。 . . . 本文を読む
コメント

008 益田(島根県)・・・人麻呂と雪舟さんが居るはずだ

2007-01-27 09:10:08 | 鳥取・島根
「これから益田に出て、萩へ行く予定です」と私が言うと、津和野の宿の仲居さんは「萩なら直行バスがいいですよ。80分で着きます。益田に行ったって、なーんにもありませんから」と、呆れた様子で私を眺めた。仕事でもないのに益田を訪ねる物好きのいることが、信じられない様子である。 益田は島根県の長い海岸線の西端にあって日本海に臨み、山口県と県境を接する。人口は58000人ということだが、東京にいてその町の . . . 本文を読む
コメント