今日は、この街にいます。

昨日の街は、懐かしい記憶になった。そして・・

879 ポートランド②【アメリカ】

2019-08-01 13:22:53 | 海外
シアトル滞在を1泊に抑えてまで、週末をポートランドに合わせたのは、この街で毎週末「サタデーマーケット」が開かれるからだ。地元アーティストによる全米有数規模のクラフトマーケットだという。土曜日の午後、Amtrakの遅れにハラハラしながら街に着くや、ホテルでの荷ほどきは妻に任せ、私はウィラメット川の緑地公園を目指す。マーケット会場は道路を挟んで2カ所に分かれ、なかなかの賑わいである。



一見、よくあるフリーマーケットのようでもあるけれど、これが1973年、二人の女性アーティストの活動から始まって、全米最大の「継続的野外芸術・工芸品市場」に発展してきたアート・マーケットなのだった。創業女性二人は「地元の作家たちが作品販売の場を確保することは、愛好者を呼び込んで地域経済のエンジンに成り得る」という考えを、粘り強く市に訴えたという。結局、行政はこのアイデアに乗った。



運営のため非営利・非課税の団体が設立され、木工、ガラス、絵画、陶磁器など地元の作家たちによるコミュニティづくりが本格化した。今では会員が350人を超え、年間800万ドルを売り上げるという。訪問者は私のような者も含め、毎年100万人にのぼるらしい。創作活動と生活という難問を安定させ、同時に街の名所を創造することに成功している。こうした場が私の街にもあったらいいのに、とつくづく思う。



ただ運営には困難が伴っただろう。作家たちの個性が強く出過ぎては、単価が高くなりなかなか売れないだろう。かといって客に媚びを売るような商品ばかりでは、単なる土産物マーケットに堕してしまう。その塩梅が難しいところだ。すでに半世紀近くも続いているということは、塩梅がうまくいっているということだろう。立ち並ぶブースの主人は概ね作家だから、作品と作家を見比べながら物色する面白さもある。



翌日の日曜日も行く。妻は同年輩のおばさん手作りの子供服を買って喜んでいる。私は奇妙な「面」のブースに惹きつけられた。素材の不思議さを髭もじゃの作家に問うと「セメントだ」と言う。驚いて2個買う。後にホームページを見るとAndrew Lonnquistという彫刻家で、「地元にとどまり、彫刻を手作りし続けることに誇りを持っている」と書いている。夫婦で工房を運営、職人も増え順調に制作しているようだ。



この街が「住みたい街」に選ばれる秘密を、私はサタデーマーケットの生い立ちに見出す。市民がアイデアを積極的に提案し、行政がそれを後押しする。そうした歯車がうまく機能している街なのだろう。またこの街は、都市サイクリングを推進していることで名高いのだとか。自転車に優しい道路網作りは世界的な評価を得ているという。市街地の車の通行が少ないように思えたのは、自転車通勤の割合が全米1位だからか。



一方でポートランドは、都市利用に行政の強い統制権を認めてもいる。そのことがダウンタウンの衰退を防ぎ、全米の緑豊かな都市10傑に選ばれる結果につながっているようだ。中心部の広場に、個人名が彫り込まれたレンガが敷き詰められているエリアがある。広場を彩る植物プランターを寄付した人々の名前らしい。公園の「思い出ベンチ」の手法だ。こんなところにもこの街の意気込みが見て取れる。(2019.6.29-7.2)









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