今日も萩城下を歩いている。指月(しづき)山の萩城跡を出発し、城下の路地を無計画に折れ曲がり、のんびり歩く。「萩焼」の看板を出す店が、次々と現れる。その都度立ち寄って眺めたり話を聴く。観光客が最も少ない時期だということで、どの小路に入り込んでも人影はほとんど見かけない。
それでも築地塀から大きな夏みかんが垂れ下がる屋敷町は、みごとに掃き清められている(写真・上)。これほどに古いたたずまいをそっく . . . 本文を読む
萩に着いた。今回の旅(安芸―周防―石見―長州路)の最終目的地であり、私にとって長年の懸案の地・萩である。何が「懸案」であったかは私事にわたるから省くが、とにかく訪ねてみたかった土地なのである。目的は二つ、吉田松陰の事蹟を訪ねることと、萩焼を堪能することである。さっそく松下村塾が残る松陰神社に向かった。
この地から多くの維新の志士たちが輩出したことは、長州藩の置かれた時代状況によって説明が付き、 . . . 本文を読む
「これから益田に出て、萩へ行く予定です」と私が言うと、津和野の宿の仲居さんは「萩なら直行バスがいいですよ。80分で着きます。益田に行ったって、なーんにもありませんから」と、呆れた様子で私を眺めた。仕事でもないのに益田を訪ねる物好きのいることが、信じられない様子である。
益田は島根県の長い海岸線の西端にあって日本海に臨み、山口県と県境を接する。人口は58000人ということだが、東京にいてその町の . . . 本文を読む
JR山口駅から一輌だけのディーゼル車に揺られ、一時間ほどするとやや長めのトンネルが連続した。そこを通過すると下り勾配になり、山口・島根県境の峠を越えたのだと気が付いた。すると眼下に狭隘な盆地が広がってきて、盆地中央を蛇行する川に沿って人家が増え始めた。まるで天空から俯瞰しているような眺めである。津和野に着いたのだろう。
「山陰の小京都」というキャッチフレーズで、近年とみに人気があるらしい津和野 . . . 本文を読む
土地柄に「派手」と「地味」の違いがあるとすれば、山口県というのは全体に「地味」な仲間に入るのではないか。それは大きな事件や天災が少ない土地であることの証明でもある。幕末から明治維新にかけて、この国で最も派手な土地に躍り出たことはすでに遠い記憶である。
その山口の地に立って、最初に受けた印象は「何という穏やかな風景だろう」というものだった。「山の口」にあたることが地名の由来なのだろうに、四囲には . . . 本文を読む
「おごおり」という町は、所在地を正確に地図に指し示せないくせに、私の記憶の中では古くから存在している町だった。それは鉄道の路線地図で、山陽本線の広島と門司の中間あたりの、拠点のように見える駅の名前だったからである。
今回、所用で山口市に出かけることになり、日程を決めようとして私は焦った。「小郡」という駅が見当たらないのだ。山陽本線と山口線の分岐駅は、山陽新幹線の駅も加わって「新山口」という名 . . . 本文を読む
呉という街には、今でも「かつては東洋一の軍港と謳われた・・・」というマクラが付く。しかし「軍」とか「戦」とか「防」という表現は、勇ましいようでいてどこか暗さがまとわりつく。いったいどんな色を感じさせる街なのだろうかと出掛けてみた。
JRの駅を下りると、駅前広場には巨大なスクリューが鎮座していた。なるほど、ここは造船の街だと分かる。評判の「大和ミュージアム」を見学すると、戦艦の建造が造船技術の向 . . . 本文を読む
鳥の名前がついた地名は、全国にどれくらいあるのだろう。東京には「三鷹」がある。この名は江戸時代、将軍家など御三家の鷹場があったことに由来する。武蔵野台地の手付かずの雑木林を東西に、「人見街道」が延びていく途中、鄙びた集落が広がっていたのだろう。往時の末裔ではないだろうか、市内の井の頭公園には、オオタカが営巣しているという根強いうわさがある。
北はずれのJR三鷹駅あたりには「連雀(れんじゃく)」 . . . 本文を読む
「東京で住みたい街は?」というアンケートで、常に第一位になるのが吉祥寺である。JR中央線の吉祥寺駅を中心に、東京23区外としては珍しいほど奥行きの深い繁華街が形成されている。おしゃれな店があって、ちょっとわくわくできそうなレストランがあって、そのくせ突然、レトロなおじさん好みの路地が現われたりして、私もこの街が好きだ。
東京暮らしを始める女子大生が、最もこだわる条件が「住所に《吉祥寺》って付か . . . 本文を読む
「北海道2泊3日2万2000円」という格安ツアーとは、いったいどんな内容なのだろうかという興味が発端で、夫婦二人の函館-小樽-札幌ツアーが決行された。冬休み直前というシーズン・オフだからか、3つの街のクリスマス・イルミネーション見物という、いささか侘しい売り物ではあるが、往復ともJALを利用、朝2夕1の食事付でこの料金というのだ。
羽田から小さな飛行機で函館に飛ぶ。搭乗手続きなどは個々に行うか . . . 本文を読む
まち、それは「住まい」「商店」「飲み屋」「遊技場」「学び舎」「病院」「社寺」「駅」といった建物が形づくる、人々が暮らし、行きかう場所です。喜びと怒り、哀しみと楽しさが渾然となって、しかし人々は孤立を恐れず、元気に生きています。
私は「まち」を歩くことが好きです。いつもはホームグラウンドを歩き回り、しかし時には日本の「知らない街」を、さらには遠く異郷の地を彷徨うことも好きです。そうやって歩き回っ . . . 本文を読む