砂というより、石灰か小麦粉のパウダーの上を歩いているような気分だった。竹富島のコンドイ浜は、砂浜と遠浅の海が白と水色に輝き、よく知る海辺とは別種の自然に見えた。そのうえ4月上旬とはとても思えない陽気で、子どもたちは海水浴、大人たちは大潮の恵みで遙か沖合いまで歩き、モズク採りを楽しんでいる。360度、1点の翳りもない世界で、アダンの陰に日差しを逃れた。田中一村の気分である。
八重山列島のうちの、 . . . 本文を読む
島の観光案内によれば、「石垣随一の景勝地」だという川平(かびら)湾から船は出港し、米原ビーチの沖合いに停泊した。ところが乗り合わせたダイバーたちは、潜水のできない私一人を置き去りにして、船長を先頭にさっさとサンゴ観察に潜ってしまった。4月になったばかりなのに気温は28度。薄い雲が程よく日差しを遮り、紺碧の東シナ海を渡ってくる微風が肌をなでる。微かな揺れの中で、私は午睡を決め込んだ。
鹿児島から . . . 本文を読む
佐賀県唐津市は九州北部、玄界灘に面し、糸島半島と東松浦半島に囲まれた唐津湾に臨む城下町である――と書けば、それだけで古代から近世がパノラマとなって浮かんでくる。そんな唐津という街の存在感はただごとではない。そのうえ「1井戸2楽3唐津」なのだから、歴史・焼き物好きに素通りはできない。佐賀からJR唐津線で1時間10分ほど、長閑な平野が緩やかな山地となり、やがて海が見えて来た。
街並みにさびれをにじ . . . 本文を読む
佐賀に行くなら吉野ヶ里に立ち寄らねばならない、と決めていた。「日本古代史研究家」を自称する私は、一時期、考古学にのめりこみ、遺跡・遺構・遺物の解析に心ときめかせていたのである。だから吉野ヶ里の発見は衝撃であり、九州出張の時間を割いて駆けつけたものだった。あれから15年、弥生時代の巨大遺跡はどうなったか、ぜひ確認しておきたかった。
佐賀駅から通勤の客に混じってJR長崎本線各駅停車に乗り、3つ目の . . . 本文を読む
柳川での所用が済むと、予備日としていた時間が丸々1日、空くことになった。さて、どこに行こうか。地図を見るとすぐ隣に佐賀があるし、熊本だって博多に戻るより近そうだ。県庁のある街は地方の中心都市ということになるが、私はこのふたつの街とも行ったことがない。絶好の機会を得て贅沢な迷いに悩んだ挙句、佐賀に行くことに決めた。こんな折りでもないと、行きそびれてしまいそうだからである。
柳川から佐賀へ、1時間 . . . 本文を読む
福岡県は日本海(玄界灘)と瀬戸内海(周防灘)、それに有明海という3つの海に向き合っていることを、初めての柳川訪問で気が付いた。福岡・天神から柳川まで、西鉄特急で45分だったから、玄界灘から有明海までの距離はたいしたものではない。3つの海に囲まれた筑紫は、実に小さな世界なのである。そしてこの小さなトライアングルは、邪馬台国探検をする者には避けて通れないミステリーゾーンでもある。
かつて柳川あたり . . . 本文を読む