駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

劇団メリーゴーランド『誘惑のクミンシード』

2019年09月16日 | 観劇記/タイトルや・ら・わ行
 文化シャッターBXホール、2019年9月13日19時(初日)。

 20世紀初頭。砂漠の中に宝石のごとく存在するサラーブ王国は二千年の昔より蜃気楼に守られ、未だに魔神が存在する国であった。ある日、ヨーロッパから飛び立った考古学者キース(斎桐真)の飛行機が王国の地場に囚われ、サラーブ王国の青年サイード(華波蒼)の「アジト」近くに墜落する。その衝撃で、王国を守ってきた「精霊の壺」の最後のひとつが割れてしまい、魔法の王国に戻し得ない歪みが現れ始め…
 脚本・演出/平野華子、俵ゆり、作曲/内海治夫、振付/俵ゆり、千泥遙。女性だけのオリジナル・ミュージカル劇団10周年記念公演、初の2幕もの。

 もう5年ほど通っている劇団の本公演で、前回公演の感想はこちら
 つい先日、楽園で飛行機でどうのというバウとか植物で精霊がどうとかいう大劇場公演を観た気がしましたが、単なる偶然の一致でしょうがむしろ先取り感が素晴らしい。だってほぼ一年かけて準備しているんですものね? というか、ここは単なるなんちゃってタカラヅカ劇団なんかでは全然なく、脚本のクオリティはマジで毎度「これまんまバウでやればいいのに…」と思うクオリティの高さで、劇団の若手もマジで見習ってもらいたいです。てか勉強して!
 もちろんみなさん別にお仕事を持ちながらの団員生活、公演なのでできていないこともたくさんあるんだけれど、あたりまえですが素人では全然ない芝居とダンスのレベルにも毎度感動します。ちょっと好きなくらいではあんなことは絶対にできなくて、ちゃんと日々お稽古で鍛錬している証が発揮されているのです。その姿勢にも本当に感動します。
 そして何より単純に楽しい、おもしろい、よくできています。今回も、力業と言っていい怒濤の大団円突入に笑うやら泣くやら感動するやら、大変でした。なんせキャストが増えてできることが増えて、でもちゃんとみんなキャラが立っててかつストーリーに絡んでいて、なんなら話をガンガン広げるので、それをまたガンガン畳み回収し愛と友情を寿ぎ人類愛を歌い上げる大ハッピーエンドにまとめるんだからたいしたものです。
 本当を言えば、たとえば観客が感情移入するのは、というか立場を同じくするのはキースなので、彼をもっと上手く使って、この国の在り方やや女王姉弟のことをもっと早く上手く説明してくれるともっと物語り世界に入りやすいのにな、とは思いましたし、サフィア女王(妃桜みおん。毎度圧巻の歌姫っぷりと優雅なドレス捌き、身軽いお衣装になってからのフィナーレのダンスの美しいことよ…!)と大富豪ジャウハラ(月夜見翔。毎度ニンすぎる一見悪役チックなでも実は主人公の良き親友で…みたいな役どころ、たまらん! あと乳母とはなんなのラブなのキャー萌える!!)が何をどう対立しているのかももっと事前に上手く説明してほしかったなと思いました。ジャウハラは、もちろん自分の儲けが一番なんだろうけれど、開国推進派なのか、それとも閉ざされていた方が独占できていいと考えているのか、私にはよくわからなかったのです。だから壺が割れたことを歓迎しているのかなんなのか、よくわからなくて…ここの利害と、仮にも王弟である(笑)サイードと幼なじみであることなんかが上手く絡むと、ドラマとしてもうひと盛り上がりしたはずですよね? フルム(清花紗海。生腹ごちそうさまでした鬘が素晴らしすぎましたあんな靴であんなダンスどういうことなんだすごすぎました)のこととかもさ…スッキリ萌えたりせつなくなったりできる道筋がもっとわかりやすくできてるといいなのにな、ともったいなく感じたのです。
 でも、サイードとコーカリー(羽良悠里。毎度燦然と輝くすっとんきょうヒロイン力が素晴らしすぎました)のラブコメっぷりとかホントにやにやさせられましたし、キースの座持ち力?に感心しワトワート(紗蘭広夢)のもはや卑怯なまでの存在感とラスボスっぷりに感動しその弟子ロクサーヌ(米原恵)のキュートでややへっぽこな弟子っぷりに萌え魔神がそれぞれ素敵で蛇の精霊のモダンバレエっぷりを愛でていたら、歴代公演タイトルを回収しかつタイトル出オチみたいなラストにまさかの大感動をさせられるという、類い希なる観劇体験ができたのでした…!
 真面目な話をすると、人が希望を持つことを「欲望」と表現し、かつそれを全面的に肯定している世界観に感動しました。女神さま(精霊だけど)がおっしゃるんだから間違いない。
 なのでもしかしたら、王弟だけど半分しか人間でなく半分しか魔神でなく魔力はない、ということにコンプレックスを抱いてちょっとモラトリアムっぽくなっていた主人公サイードが、健全な「欲望」を取り戻し成長する…というのがそもそもの主軸のストーリーだったのかもしれませんが、それは残念ながらちょっとわかりづらかったかもしれません。あれこれ他にも描かなくてはいけないキャラクターやエピソードが多くて、サイードの出番が単純に割を食った感じがするというか、エピソードがないというかしどころがないというか、でちょっと求心力がない主役に見えた気がしてしまったんですよね。役者はいつものヘタレ巻き込まれ美形っぷりをいい感じに発揮してはいたと思うのですが…このあたりのバランスが、メンバーが増えてきた今後の課題かもしれません。別に宝塚歌劇なみのスター制度を取らなくても全然いいんだけれど、物語ってやっぱり主役が動かす構造になっているべきものだと思うので、たとえ巻き込まれ型だろうとでんと主軸でいなくちゃいけない、観客の気持ちが主役に沿って話を追っていく形に誘導しなきゃならないんだと思うのです。
 あとは劇場の仕様でしょうがないんだろうけれど、照明にもう一段階凝れるといいですよねー。プロローグとフィナーレは特にもっとピンスポ欲しかったです。あとマイクも数がないのかな? まあ生声で十分なハコではあるのかもしれませんが…
 そうそうフィナーレ、カッコ良かったなーちゃんとしてたなー! トップスタァの周りで四組デュエダンとかあるんですよすごくないですか!?
 狭い舞台でお疲れ様です、残りの公演もご安全に、より盛り上がり練り上げられますよう祈っています。次回公演も楽しみにしております!



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