駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『キス・ミー・ケイト』

2017年08月08日 | 観劇記/タイトルか行
 東京芸術劇場、2017年8月4日13時半。

 1948年初夏、新しいショーの開幕準備のために俳優や裏方たちがボルチモアの劇場に到着した。このショーはシェイクスピアの『じゃじゃ馬ならし』をミュージカル仕立てにした新作で、ニューヨークで一か月稽古を積み、仕上げのトライアウト公演を行うためにやってきたのだ。一座を率いるのは主演俳優にして脚本家、演出家、さらにプロデューサーも兼ねるフレッド・グラハム(松平健)。主演女優のリリー・ヴァネッシ(一路真輝)はフレッドと別れて一年の元妻で、ふたりはすぐ喧嘩腰になるが、甘い思い出が残っている…
 作詞・作曲/コール・ポーター、脚本/サム&ベラ・スピワック、訳詞/なかにし礼、訳/丹野都弓、演出・振付/上島雪夫。1948年初演、トニー賞受賞の名作ミュージカル。全2幕。

 宝塚歌劇版を映像でも観たことがなくて、でも再演の噂もチラホラ聞こえていたので出かけてきました。…が、けっこう絶句しました。古くて…
 映画演劇文化協会で演劇・ミュージカルの普及を目的に『王様と私』『南太平洋』と全国ツアーを組んできた第3弾だそうで、ラインナップからも今どきのオペラ・ミュージカルではない、古典的というかちょっとレトロな作品をあえて上演して回っているのだ、という意図はわかりますし、レトロだクラシカルだと言っても時代を超える名作が存在するのも確かだとも理解しています。
 でも、現代に上演するならもうちょっとアップデートしないと伝わらないものもある…ってこともまた、もうちょっと認識されてもいいのではないかしらん。ナンバーをたっぷりやるのはいいしおおらかな大芝居もいいけれど、もうちょっと情報量がないとスカスカで退屈しますし、意味がわかりづらい部分も多いと私は感じました。今どきドット絵のゲームをやるゲーマーはいないよ?という感じ、というか。
 主役ふたりはもちろん、若手女優ロイス(水夏希)とかその恋人のビル(平方元基)も、あまりにも類型的なキャラクターで描かれ方が浅薄なのも、まあコメディだから、おおらかな時代の作品だから…ということで目をつぶってもいいけれど、でもどうせだったらもっと丁寧に繊細に役を作ってもいいのにね、と思いました。あと、主演のふたりはこの役にはさすがにトウが立ちすぎているのではないかしらん…若い役者ではなくて、中年入り口みたいな年恰好の役者の方がいいんだとは思うんですけれど。
 あと、本家『じゃじゃ馬ならし』を不勉強でよく知らないんですけれど、カタリーナの描かれ方ってなんなの? ビアンカがヒロインで、彼女の結婚を阻む面倒な嫁ぎ遅れの姉、ということなのでしょうが、なんであんなに粗暴で男嫌いなの? 昔の時代には貞淑で従順で要するに男に都合のいい白痴的美女だけがよしとされていて、頭が良かったり弁が立ったりして男に反抗するような女は、まして不美人だったりするとさんざんにデフォルメされて魔女か狂女扱いで、ヒステリーの塊みたいに差別的に描かれ物笑いの種にしていいとされていたものである…ということは理解しているつもりですが、このキャラクターの扱いもその系譜ということなの? だとしてそれを現代のミュージカルで劇中劇として演じるにあたり、そのまんまでいいと思っているの今回のプロデューサーは? それってフレッドよりさらに腕のないプロデューサーってことですよね?
 あと単純に、カタリーナを演じているリリーがペトルーチオに対してではなくフレッドに対してだんだん荒れてきて…というのが芝居としてなんかよくわかりませんでした。このミュージカルは、この劇中劇と現実との重なり具合やそのズレを楽しむ趣向で作られているものなんだと思うんだけれど…
 夫が妻に、というか男が女に躾と称して暴力をふるう、というのは今では決して容認されないことですし、女が男に対して下手に出てみせることで結果的に男に愛され逆に男を支配できるのだ、とする流れもいかにも古い。観ていて不愉快で唖然としました。
 ただ、フェミニズム的になんでも目くじらを立てればといいと思っているわけではなくて、現代にも通じる男と女の愛のバトルとして、また元サヤに至るラブコメとして、見どころもやりようもあるだろうと思えるだけに、もっと丁寧に手を入れてやってくれたらいいのに…と私は思ったのでした。
 もしまた宝塚歌劇で再演されるなら、初演がどんなテイストだったのか全然知らないのでなんとも…ですが、是非ともせめて演出補に女性演出家を入れるなどして手当てしないと、このまんまだとヤバい地雷を踏みまくりそうだけどな、としか思えませんでした。ちょっと、かなり、心配です。再演が単なる噂にすぎないのならいいんですけれど…
 あと今回のこの公演自体がウケているのかどうかも、とても心配…
 アンサンブルのナンバーに大きなものが多く、そこはソング&ダンスを堪能しました。なのにプログラムにナンバーリストがなかったのは残念です。ミュージカルの普及を歌うにしては痛恨の手落ちだと思います。
 ミズはニンじゃなかったと思うけど、脚出してきゃぴきゃぴ楽しそうだったのでよかったです。川崎麻世といい太川陽介といい、往年のスターの使い方が贅沢すぎてビビりました。あとカーテンコールというかフィナーレは冗長で蛇足だったと思います。ラインナップだけで十分だったと思う。
 要するに全体として、こういう古典的名作を今やるからにはもっと若手の演出家が若い感覚でバッサリ手を入れて改変しないと通用しないよ、でもそれをせずにただなんか古いねって言われて忘れられていくにはもったいなさすぎる作品だと思うので誰かなんとかしてくださいよ、と思った、という観劇でした。どなたか、どうぞよろしくお願いいたします…







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