映画 ご(誤)鑑賞日記

映画は楽し♪ 何をどう見ようと見る人の自由だ! 愛あるご鑑賞日記です。

すべてうまくいきますように(2022年)

2023-03-04 | 【す】

作品情報⇒https://moviewalker.jp/mv79186/


以下、上記リンクよりあらすじのコピペです。

=====ここから。
 
 小説家のエマニュエル(ソフィー・マルソー)は、85歳の父アンドレ(アンドレ・デュソリエ)が脳卒中で倒れたという報せを受け病院へと駆けつける。

 意識を取り戻した父は、身体の自由がきかないという現実が受け入れられず、人生を終わらせるのを手伝ってほしいとエマニュエルに頼む。愛する父からの思わぬ発言に困惑するエマニュエル。つい「悪い父親よ。友達ならよかった」と嘆くが、「なら友達として手を貸すのよ」と友人から背中を押され、妹・パスカル(ジェラルディーヌ・ペラス)とともに父の最後の願いに寄り添うことを決意する。

 そして、フランスの法律では安楽死の選択は難しいため、スイスの安楽死を支援する協会を頼る。一方で、リハビリが功を奏して日に日に回復する父は、孫の発表会やお気に入りのレストランへ出かけ、生きる喜びを取り戻したかのように見えた。

 だが、父はまるで楽しい旅行の日を決めるかのように、娘たちにその日を告げる。

=====ここまで。


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 オゾン監督作品で、ソフィー・マルソーなんて懐かしい名前を見て、おまけにシャーロット・ランプリングもご出演ということで、劇場まで行ってまいりました。昨年、ゴダールが尊厳死したことが話題になりましたが、本作も、話のメインテーマは尊厳死です。


◆尊厳死における最大の問題は、、、

 描かれているテーマが重い割に、鑑賞後感は悪くない。同じ尊厳死映画『母の身終い』(2012)よりも、全編明るく、軽快でさえある。

 尊厳死は、いずれ法制化なり何なり、国民的な議論が必要になる時がくるだろうけれども、今のところ、私が思うには、尊厳死を選択する本人よりも、その周囲の人の心理的な負担が大きいことについて、どう対処するかが非常に難しいのではないか、ということである。尊厳死を選択する本人の心理的負担が軽いといいたいわけでは、もちろんない。

 これは、『母の身終い』でも感じたが、尊厳死を選ぶ人は、意志が固い。周囲の説得くらいでは、まったく揺るがない。尊厳死を選択する決断も早ければ、決断後の葛藤も少ない感じである。少なくとも、本作のアンドレに葛藤はまったく感じられないし、死への意志も揺るぎない。葛藤し、悩み戸惑いまくるのは、飽くまで周囲の人間たちなのだ。

 アンドレは元気なときからかなり奔放な生き方をしてきた人らしく、家族は振り回されて、妻は鬱になってしまっている。尊厳死を選択するにあたっても、正直言って、自分のことしか考えていないように見える。自分の人生、自分で決めて何が悪い!という感じ。『母の身終い』で尊厳死を選んだイヴェットは、アンドレに比べると実直に生きて来た人で、尊厳死を選ぶことへの葛藤も多少見られたが、決断後の意志は固かった。

 『母の身終い』もフランスでの話で、スイスへ行って実行するというのは同じである。違うのは、身内が立ち会うか、立ち会わないか。『母の身終い』では息子が立ち会うのだが、これが立ち会わなければならなかったのか、母親が立ち会いを希望したのか、記憶が定かでないのだが、立ち会わされる身内としては精神的虐待(拷問と言ってもよいかも)に近い。ただ、薬を自身で飲む、というのはやはり同じで、詰まるところは、自殺である。親が自殺するところを眺めていなければならない息子の気持ちは、察するに余りある。

 本作が『母の身終い』よりも重くなかったのは、本人を取り巻く子どものバックグラウンドの差にあるように思う。『母の身終い』での息子は前科者で、自立できていない典型的ダメンズだが、本作では、ソフィー・マルソー演ずる長女エマニュエルは作家、妹もちゃんと生活している人、妻は鬱だが芸術家で娘二人との関係は悪くない。『母の身終い』の場合、母親が死ぬということは、母親に依存しきってきたダメ息子にとって、この世で孤立無援になることと同義であり、なおかつ、母親の自殺の後ろ盾とならなければならないという、ダメ息子と母との立場が逆転せざるを得ないところに悲壮感が溢れた。けれども、本作の場合、特に長女のエマニュエルはしっかり者なので、放蕩父が最後の最期でまたトンデモなわがままを言い出した、、、という感じで、立場の逆転がない。だから、まったくこの父は!という娘たち認識の延長上にこの尊厳死問題が起きたということになる。

 そんなしっかり者のエマニュエルの視点で本作は描かれるが、どんなにしっかり者だろうが、やはり、親の自殺を幇助するためにあれこれ手続をする、その心理的負担は重過ぎることに変わりない。仮に合法化するとして、手続面については、きっちり厳格な法整備をすることは可能かと思うが、尊厳死における一番の問題は、やっぱりこの「周囲の者の精神的負担」をどうするかだと思う。これは、法律でどうこうできるものではない。


◆その他もろもろ

 ソフィー・マルソーを見るの、ものすごい久しぶりな気がするのだが、調べたら2009年に『真夏の夜の夢』(1999)の感想を書いているので、多分それ以来ではないか、、、。そもそも、私は彼女の代表作である『ラ・ブーム』も見ていないし、彼女のことは別に好きでも嫌いでも何でもないのだが、本作の予告編でイイ歳の取り方をしているように感じたので、見てみる気になったのだった。

 そして、本作でのエマニュエルとしての演技はとても良かった。全編通して、着ている物はシンプルなパンツルック、化粧っ気もなく、髪も無造作な感じで、ボクサザイズで汗を流し、ゴア映画大好きというキャラ。半面、歳相応に美しくて、素敵な中高年女性という人物像になっていた。父にウンザリしながらも、愛してやまないという感情の襞をうまく演じていて、演出も良かった。さすがオゾン監督。

 尊厳死を選ぶ本人アンドレを演じるアンドレ・デュソリエが、実に味わい深くて良かった。脳梗塞で身体の自由が利かなくなった演技が自然で、なおかつ、元気な頃に相当な自由人だったことがよく分かる佇まいというのは、なかなか出来る芸当ではないと思うので、素晴らしい。

 孫の音楽発表会を何としても見届けたいと言って、一旦、自殺の日程を延期するのだが、それでエマニュエルもアンドレが心変わりしてくれるかも、、、と一瞬期待する。けれども、アンドレの意志はゼンゼン変わっていない、という辺りがエマニュエルの心理的にはかなりツラい展開ではないか。まあ、ここまで本人の意思が固いと、却って遺される方も覚悟が決まる気もするが。

 最後の最後で、アンドレの軽挙によって、警察沙汰になりかけて決行の予定が狂いそうになる。このひと騒動があったおかげで、予定通りに事を運ばせようと、図らずもエマニュエルは父の決行に積極的に加担することになり、どさくさで悲嘆にくれる暇もなく、却って良かったのかも知れない、、、と感じた次第。

 ラストは、もちろん予定通りにスイスへ向かい、アンドレの意志は完遂される。

 

 

 

 

 

 


尊厳死の合法化は、やはりかなり難しいと思う。

 

 

 

 

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コメント (2)    この記事についてブログを書く
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2 コメント

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逝かせて (松たけ子)
2023-03-05 01:30:21
すねこすりさん、こんばんは!
尊厳死…重いテーマですが、映画は重くないみたいですね。さすがオゾン監督。尊厳死を望む人よりも、その周囲の人のほうが辛いですよね~。私も自分自身だと尊厳死できたらさぞ気持ちが安らぐだろうな~と思うけど、老父母に尊厳死したいから手伝って!なんて言われたら、すごく困るし悩むでしょう。
ソフィー・マルソー、知らぬ間に素敵な熟女になりましたね。フランス女優って年齢の重ね方が上手ですよね。大女優好きのオゾン監督、ソフィーの次はイザベル・アジャーニと、新作はイザベル・ユペールと。大女優と仕事って大変そう!
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Unknown (すねこすり)
2023-03-05 21:32:47
たけ子さん、こんばんは!
ホントに、本人よりも周囲が厳しい状況に置かれると思いますね~。
でもこれから高齢者が多数派になる社会ですから、イヤでもこういうことには向き合わないといけなくなりそうです(..)
オゾン監督にしては、ド・ストレートな作りで、逆に意外でしたね~。
アジャーニ様との映画、たけ子さんのブログで拝見しました。見たいけど、ちょっと見るのが怖いような、、、。
ユペール様にしろ、両イザベル、恐るべしですね(*_*)
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