映画 ご(誤)鑑賞日記

映画は楽し♪ 何をどう見ようと見る人の自由だ! 愛あるご鑑賞日記です。

レディ・マエストロ(2018年)

2019-10-06 | 【れ】

作品情報⇒https://movie.walkerplus.com/mv68259/

 

 以下、上記サイトよりあらすじのコピペです。

=====ここから。

 1926年、ニューヨーク。オランダからの移民アントニア(クリスタン・デ・ブラーン)は、指揮者を目指していた。

 女性は指揮者になれないと言われながらも、誰にも負けない音楽への情熱を持ち続けたアントニアは、ナイトクラブでピアノを弾いて学費を稼いで音楽学校に通うが、ある事件から退学を余儀なくされる。

 引き留める恋人を置いて、アムステルダムからベルリンに渡り、ついに女性に指揮を教えてくれる師と出会う。レッスンに没頭するアントニア。

 そんな彼女に、出生の秘密や恋人の裏切り、女性指揮者への激しいバッシングなど、次々に壁が立ちはだかる。

=====ここまで。

 1902年生まれの女性指揮者のパイオニア、アントニア・ブリコの物語。1989年没。

 

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 クラシック音楽を扱った映画は、大抵ハズレなので見ない方が良いと分かっているんだけど、割と見ちゃうんだよなぁ。だから、本作もゼンゼン期待しないで、むしろドン引きするのを恐れながら(じゃあ、見に行かなきゃええやん、と自分でも思う)見てみたんだけど、これが意外にも良い映画で掘り出し物に会った気分。

 ホントに、忘れた頃にこういうステキな出会いがやって来るから、映画ってやめられないんだわ~。

 

◆男ばっかの指揮者の世界。

 指揮者って、ホントに男ばっか。日本で今、若手女性指揮者というと、西本智実三ツ橋敬子、、、くらいしか名前が浮かんでこない。お二方ともライブで聴いたことがあるが、西本さんはまぁ、、、正直なところ話題先行で(ルックスがカッコイイからか?)特別個性を感じなかったが、三ツ橋さんは小柄ながらもの凄いエネルギッシュでキレッキレの悲愴(チャイコ)にビックリした記憶がある。

 ……が、つい最近、ブザンソンで久々に日本人女性が優勝したというニュースが。沖沢のどかさん、31歳だとか。これはスゴい快挙だろう。久々に、というのは、82年にも日本人女性の松尾葉子さんが優勝しているから。

 実は、松尾葉子さんは、私が学生時代にいたオケを何度も振ってくれていた。私が在籍中は残念ながら巡り合わせがなかったけど、数年違いの先輩・後輩たちは松尾さんの指揮を受けている。裏山のしーたけだ、、、。

 それはともかく。いまだに女性が優勝するとニュースになるのが指揮者のコンクールなのである。松尾さんが優勝したときは、女性初というのもあったが、それ以前に小澤征爾が優勝したことがあるとは言え、まだまだアジア人のハンディが今以上に大きかった頃だから、それはそれは大変な出来事だったはずだ。

 新聞記事によれば「沖沢さんは観客が選ぶ「観客賞」と演奏したオーケストラが選ぶ「オーケストラ賞」にも輝いた」とあるから、実力は相当のモノだろう。プロのオケに評価されるというのは、そんなに簡単なことではない。クライバーの死後、彼の生前の活躍がDVDになったが、そこで彼の縁の人が言っていた。

 「指揮者なんてのは、ピラニアの水槽に飛び込むような仕事。私は絶対やりたくない」

 オケの演奏者たちも、一流オケになれば皆一流揃いでプライドは高いし一筋縄ではいかない奏者ばかりだ。本作でも、アントニアの指揮に従わないコンサートマスターが描かれている。ただでさえプライドの高い当時のコンマス、新人の、ましてや女の指揮者なんかに従えるか!って、実際にセリフで言っている!! ……まぁ、これが現実だったんだろうなぁ、と容易に想像がつくが。

 そこでアントニアはどうしたか。コンマスのストラディバリウスを取り上げると「あなたには楽器がある。でも私にはオケがいなければ音楽を演奏できない! 指揮者にはチャンスが少ない。人間は皆失敗しながら成長するが、指揮者に失敗は許されない。私のチャンスを潰すな!!」(セリフ正確じゃありません。もっと賢い言い回しでした)と魂の叫びを発していた。このシーンが本作の白眉だろう。

 

◆構成が素晴らしい。

 私が、ドン引きするかも、、、と危惧していたのは、こういう映画では、主人公の情熱が過剰に描かれる半面、挫折の理由を全て“女であること”に落とし込む単純化がありがちだからだ。そういうパターンのシナリオだと、見ていて小っ恥ずかしくなってくるからイヤだなぁ、、、と思っていたのだ。

 で、本作のシナリオも、確かに、“情熱とジェンダー”がストーリーの縦糸には違いなかったのだが、それをマイルドにしてくれていたサイドストーリーの横糸がしっかり効いていたので、見ていてそれほど苦にならなかったのだと思う。

 主なサイドストーリーは3つ。1つは、アントニアの出自だ。彼女がNYで暮らしている両親は、養父母で、実母は別にいると、途中で明かされる。それまで、アントニアはウィリーと呼ばれている。自分が養子と知った後のアントニアの葛藤と、自分のルーツを辿る旅も描かれる。この過程は見ていてちょっと感動モノである。

 2つめは、アントニアのラブロマンス。冒頭で彼女が働いていたコンサートホールのオーナーの息子フランクと、最初は最悪な出会いながらも身分違いの恋に落ちるというベタな展開ながら、フランク君がなかなかのイケメンかつ好青年なので、許せる。好青年というか、紳士なんだよね。捻くれていないし、カワイイのだ。こんな青年なら、アントニアが惹かれるのも当然、と思える。アントニアがオランダに自分のルーツ探しに出て、そのまま指揮の修行にドイツに行ってしまうと、フランクはドイツまで追い掛けてくる。どうしてもアントニアと一緒になりたい、と。……で、アントニアの答えは、もちろんNOなんだが、その後もちょっと一悶着ある辺りが面白い。

 3つめは、今で言うLGBTだ。アントニアの指揮者への情熱を陰で支えてくれるロビンというジャズバーの男がいるのだが、このロビン、実は女性だったのである。性同一性障害で、一件男性だが、本作の終盤、アントニアが女性オケを作ったときに、ベース奏者として女性の姿で現れたのがロビン。この後、ロビンの胸の内をアントニアが聞くシーンがあるが、ここも結構感動的。ロビンを演じているのは、スコット・ターナー・スコフィールドというトランスジェンダーを公言しているお方。どこかで見た気がするのだが、ちょっと分からない。

 ……と言う具合に、かなり盛りだくさんな内容で、上映時間も2時間20分と長めだがゼンゼン長さを感じない作りで、むしろ、よくこれだけの内容をこれだけの尺でまとめたなぁと感心する。きちんと伏線も全てラストまでに回収しているし、一つ一つエピソードのさばき方は素晴らしい。

 私の斜め前に座っていた女性の方は、終盤、号泣されていた。、、、私は涙こそ出なかったけど、かなり胸に迫るモノがあった。こんな感覚になれたのは久しぶりかも。

 

◆その他もろもろ

 アントニアを演じたクリスタン・デ・ブラーンという女優さん、魅力的な美人。オランダでメインに活躍しているのかな? でも、英語もキレイに話していたように思う。ネイティブと言われても違和感がないくらい。彼女は背も高くて見栄えがし、指揮っぷりもカッコ良く、さぞや特訓したのだろうと推察する。

 アントニアは努力して、NYの音楽学校に入って指揮を習うのだが、そこで師事した男性教授に、案の定、セクハラを受けて退学となる。……まぁ、お約束な展開だけど、非常にムカつくシーンで、アントニアに抵抗された教授は、ピアノの蓋に手を挟まれて指を骨折するんだが、内心、ざまぁ、、、であった。そのセクハラシーンも下品そのもので、妻子ある身のくせに「女が指揮棒を振り回しているのはみっともない、女は子供を産め、女は底辺にいれば良いんだ」とかほざいて、アントニアの下半身を触ろうとするのである。まったく、こういう男たちは早く絶滅してほしいものだ。

 好青年フランクを演じていたのは、ベンジャミン・ウェインライト。イギリス人俳優で、『静かなる情熱 エミリ・ディキンソン』にも出演していたとか。え、、、何の役だったんだろ?? エミリの兄の若い頃かな、、、? まぁ、とにかく、フランク青年のおかげで、本作の質もいくらか上がっているのは間違いない。品もあるし、これから活躍するのでは?

 アントニアが開拓した女性指揮者の道は、まだまだ開拓途上だ。男性指揮者たちだって、おいそれと既得権益を明け渡すようなことはしないだろうし、だいたいウィーンフィルやらベルリンフィルなんてのは、いまだにアジア系蔑視が根強いと聞くし、ウィーンフィルが女性団員を入れるようになったのなんてここ数年の話、ましてや女性指揮者なんて、、、という段階だろう。そもそも、まだまだ指揮者は男がやるモノ、という固定観念が聴衆側にも根強い。沖沢のどかさんのような新星が、そんな分厚いクラシック界の壁をぶち破ってくれることを願っている。

 

 

 

 

 

もっとたくさんの劇場で上映して欲しいんですけど。

 

 

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