映画 ご(誤)鑑賞日記

映画は楽し♪ 何をどう見ようと見る人の自由だ! 愛あるご鑑賞日記です。

マイ・ビューティフル・ランドレット (1985年)

2019-09-28 | ダニエル・デイ=ルイス(D・D・L)

作品情報⇒https://movie.walkerplus.com/mv11118/

 

 パキスタン移民オマール(ゴードン・ウォーネック)は、アル中で元敏腕記者だった父とロンドンのボロアパートで貧しい暮らしをしていたが、父の弟である叔父ナセル(サイード・ジャフリー)は事業に成功し、街外れの薄汚いコイン・ランドリーの経営を任される。

 オマールは、偶然夜の街で出会った幼馴染みのパンク青年ジョニー(ダニエル・デイ=ルイス)を誘って、コイン・ランドリー経営に乗り出す。オマールとジョニーは共に過ごすうちに肉体関係を持つようになるが……。

 DDL28歳の時のTV映画。日本での公開は87年。このほど、デジタル・リマスターでリバイバル公開。

 

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 DDLの信者としては、この作品は、大事に大事に抱きしめたくなるような映画であります。公開当時、劇場で見ていない者としては、スクリーンで見る機会が来るとは思ってもいなかったので、リバイバル上映される機会は逃せない! ……というわけで、見に行って参りました。

 

◆30年後も同じ問題で苦しんでいる社会

 制作は85年で、今から30年以上前の映画だけれど、本作で描かれているのは、現在の社会情勢とまんま被るのがビックリであった。移民、貧困、同性愛。30年前からずっと抱えてきた問題だったのだ。ブレクジットで大騒ぎになっているからといって、最近降って湧いた社会問題ではないのだ。

 オマールの置かれた環境も複雑だ。父親は今でこそアル中オヤジだが、元新聞記者というだけあって、息子には教養を身に付けさせたいと願っている。しかし、先立つモノがないから、事業で成功している弟ナセルにオマールのアルバイトを頼んで、金銭面で世話にならざるを得ない。そのナセルは、移民でもその辺のイギリス人よりもよっぽど稼いでおり、愛人にはれっきとした白人イギリス女をゲットし、優越感に浸っている。そんな即物的な男には教養なんぞ眼中になく、甥のオマールに不採算なコイン・ランドリーを押し付けて、少しでも稼ごうとする。

 若いオマールが、そんな父と叔父の姿を見ていれば、必然的に現時点で羽振りの良い叔父の生き方に傾倒するのもムリはない。でも、いくら叔父が金持ちとはいえ、イギリスではマイノリティであることに違いはない。父親が教養を望むのも分かる。自分はこの先どうすれば良いのか、、、。

 おまけに、コイン・ランドリーには、オマールと相思相愛の、麗しきパンク青年ジョニーがいるんだもんね。そら悩むわね。

 ジョニーは、チンピラ仲間と一緒にいるところは描かれるが、彼の家族関係の描写はほぼないので分からない。が、彼の家はどうやら寂れたボロアパートのようで、経済的には厳しい状況にあるのは確かだ。また、以前には移民排斥のデモに参加したことがある、ということがセリフで語られる。オマールとは幼馴染みで親しかったのに、そんなデモには参加していたのだ。おまけに、彼の属するチンピラ仲間たちも白人至上主義者みたいな言動だ。

 オマールとジョニーは、一人の人間同士としては愛し合っていたけれど、彼らの属性が絡むと、純粋に愛情だけでは語れない何かを問題として引きずってくるのである。

 こういうことって、実際身近にもあるよなぁ、、、。個人的には何ら問題なく良い関係を築けていても、属性が絡むことで、急に面倒な問題が生じるってこと。人種、宗教、職業、出自、、、etc。人間は社会的動物だから、こういう属性から完全にフリーになるのは難しい。

 オマールは、父や叔父の意向で、従妹のタニアと結婚させられそうになる。といっても、父と叔父の思惑は異なるのだが、いずれにせよ、この結婚話は、タニアがきっぱり拒絶する。自立心の強いタニアは、愛人の存在に苦しみながらも夫に従わざるを得ない実母の姿を見ていて、そんな男尊女卑的社会のシステムに組み込まれることを嫌ったのだ。

 一方のジョニーは、移民でありながら自分よりも裕福な生活をしているオマールやナセルたちを見て、思うところはあるのだろうが、かと言って自分が今の状況から飛躍できるはずもなく、チンピラ仲間たちが、オマールの従兄をボコボコにリンチしているのを始めは傍観している。思い直して止めに入れば、今度は自分が、仲間たちにボコボコにされてしまう。……もうこんなのイヤだ!!! となるのも当然と言えば当然だ。

 結果的に、オマールは、コイン・ランドリーの経営を続けることになりそうなところで本作は終わる。ジョニーは、もうイヤだ!といってオマールの下を去ろうとするが、オマールにすがられ思いとどまる。ラストは、二人がじゃれ合う微笑ましいシーンで終わり、ちょっとホッとなるものの、彼らの今後を思うと複雑だ。

 

◆80年代イギリス

 本作は、サッチャー政権時代の話で、私の大好きな映画『リトル・ダンサー』と同じ。思えば、『リトル・ダンサー』も、格差と同性愛を描いていた。何となく、80年代の空気感は(当たり前だが)両作品共に似ている。音楽は、『リトル・ダンサー』では、実際の80年代のイギリス・ロックが使われていたが、本作の音楽はオリジナルなのか(?)コイン・ランドリーが舞台ということもあってか水をイメージするような音が使われていて、でも80年代ぽさが漂う面白い音楽だった。

 DDLは、本作で初めてパンク青年を演じたようだけど、パンクだろうがチンピラだろうが、DDLはやっぱりどこを切ってもDDLで、美しいし、やっぱり佇まいが違う。こういうのを、“育ち”っていうんでしょーなぁ、、、。今回のリバイバル上映に当たってのキャッチコピーも“美しきはぐれ者”だもんなぁ。やっぱり誰が見ても、“美しい”んだろうな。

 顔にペンキが付いていても、つなぎを着ていても、髪がモヒカンでも、ボコボコにされて血まみれでも、美しいDDL。あんなチンピラ、いたら友達になりたい。

 彼のちょっとした仕草、ふと延ばした指先とか、ふと振り返った眼差しとか、はにかむような笑顔とか、店の洗濯機をふわっと飛び越えるのとか、、、、そういう演技と言えないような演技が、とても繊細で素晴らしい。ああいうのって、もう天性のものなのかも知れぬ。

  『リトル・ダンサー』のビリーは、階級の壁をぶち破って、見事に白鳥へと羽ばたいたが、本作のジョニーは、到底階級の壁を壊せるようには思えない。恐らく、実際にはほとんどの青年がジョニーのように固定化された階級で生きるしかなかったのであり、ビリーはごく一握りの突破者だったのだろう。だからこそ、『リトル・ダンサー』は見終わった後に爽快感があったが、本作ではそれを感じることはできないってことなんだろうね。現実とはそういうものだ、と。

 

◆どーでもよい話(まったくの蛇足)

 本作は、95年にも一度リバイバル上映されているらしいけれど、ゼンゼン知らなかった。今回上映されたのは、恵比寿ガーデンシネマ。単館系にしてはスクリーンもでっかく、客席もゆったりしていて多めで、とっても好きな映画館の一つ。私が見に行ったのは公開翌週だったけど、公開初日プレゼントをまだ配っていて、しかも、私が見た回はガラガラで、200席近くあるのに多分20人も入っていなかったと思われる、、、。ちょっと哀しい。こんなステキな映画なのに。

 先日のゴーモン特集では満席続きだったのに、この差は何だろう、、、。この映画だって、十分レアだし、作品の完成度は高いし、注目度としては同じくらいのはずなのになぁ、、、。

 でもまぁ、信者にとって大切にしたい映画って、あんまりにもメジャーになって無数の人々の手垢にまみれて欲しくない、、、という勝手な思いもあったりして、そういう意味ではあんまり連日大入り満員でない方が良いのか……。

 

 

 

 

 

本作のDVDジャケットのDDLがちょこっとシュワに似ている気がするのは私だけ、、、?

 

 

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2 コメント

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DDL復帰まだ? (松たけ子)
2019-10-02 00:40:54
すねこすりさん、こんばんは!
この映画、大好きです♪DDLの映画といえば?と問われたら、オスカー受賞作よりもこの作品と「存在の耐えられない軽さ」が真っ先に思い浮かびます。パンクなDDLも美しかったわ~。どんな役でも風貌だけでなく、まとってる雰囲気がノーブルなんですよね~。
BL漫画の大御所、竹宮恵子がDDL as ジョニーをモデルにしたと思しき主人公の「スパニッシュハーレム」もすごい好きでした。
お江戸では東京映画祭がそろそろでしょうか?すねこすりさん、何かご覧になる?
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Unknown (すねこすり)
2019-10-02 21:53:05
たけ子さん、こんばんは☆
そ、そ。DDLの映画は、オスカー受賞作より、これ! 存在の〜も先日見て、たけ子さんイチ押しの理由が分かった気がします。
あと、私は、エイジオブイノセンスですねー。映画はフツーですが、DDLのノーブルさが心臓鷲掴みっ!!でした(^^)
「スパニッシュハーレム」初耳です。今からでも読めるでしょーか(^^; そーいえば、少し前ですが、萩尾望都のポーの一族展に行って、いっぱい原画見て来ました! すんごいキレイで頭クラクラしながら帰って来ました(^^)
東京映画祭、行ったことないんです。何かオススメありますか?
今月は、ボーダー、第三夫人と髪飾り、とか見たいなーと思っとります♪ たけ子さんのご予定は?
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