映画 ご(誤)鑑賞日記

映画は楽し♪ 何をどう見ようと見る人の自由だ! 愛あるご鑑賞日記です。

にんじん(1932年)

2021-12-15 | 【に】

作品情報⇒https://moviewalker.jp/mv14979/


 
 夫婦間の愛情が冷めてしまった時期に生まれた少年フランソワは、その髪の色から家族にも“にんじん”と呼ばれていた。口うるさい母親は、にんじんの兄や姉は可愛がり、にんじんにだけ意地悪く辛く当たるのだった。父親は、とっくにそんな母親に対する愛情は消え失せており、家ではほとんどしゃべらなかった。

 にんじんは、家の中で居場所がなく、「家とは憎み合う同士が住むところ」と考え、納屋で自殺を図るのだが、、、。

 ご存じジュール・ルナールの小説『にんじん』の映画化。ジュリアン・デュヴィヴィエ監督が6年前の1925年に公開したサイレント映画のリメイクだそうです。
 

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 みんシネの本作のレビューを読んだら見てみたくなったのでDVDを借りて見てみました。実は原作は(多分)未読で、話の筋も何となくしか知らなかったけど、見てビックリ、なかなかシビアな少年映画でござんした。


◆家庭の空気は親次第。

 とにかく、にんじんの母親が酷い人で、母親が出てくるだけでウンザリする気分になった。上記のあらすじには「口うるさい」と書いたけど、そんなのは超えている。悪意の塊みたいな言動をするんだよね。その母親に可愛がられている兄姉の性格も捻じくれているのは道理ですな。

 そして、もっとヘンなのが父親。妻の性格の悪さに、とうに愛想を尽かしており、家では全くしゃべらないのだ。にんじんに妻が酷いことを言ったりしたりしていても放置。釣竿を持って一人で出かけて行ってしまう。夫に完全無視されている妻は、ますます拗らせてにんじんに辛く当たるという悪循環が、にんじんの家の中では日常の光景と化していたのだ。

 子どもからしてみれば、この構図は、まさに地獄。にんじんが自殺を図るのも無理はない。

 自分の妻(夫)が、我が子に理不尽なことを言ったりしたりしている場合、自分がその理不尽から子どもを守らなければ、我が子はただただ傷つき続けるしかないのである。自らを守るすべもなければ、傷を癒すすべもない。傷の上にさらに傷ができ、抉られる。子の気持ちを考えただけで胸が苦しくなる。

 DV夫が子どもにも暴力をふるい、妻はDV夫が恐ろしくて子どもをかばうことができない、、、という話はよく聞くし、確かに、DVに遭っていると恐怖心は相当のものだろうという想像はできる。逃げるのも怖いだろうし、ましてや子どもをかばうなんてもっと怖ろしいのだろう。DV夫に怯える母子を描いた映画『ジュリアン』(2017)を思い出す。まあ、あの母親は逃げて我が子を守ろうとしたけど、案の定DV夫が追いかけてきたわけだが、、、。

 でも、本作での父親は、そういう恐怖感を妻に抱く必要などなく、現に抱いてもおらず、ただただ“ウザい”から、完全無視しているだけなのだ。

 親による子の虐待では、その背景は千差万別だろうが、母親の過干渉等の精神的虐待の場合は、その根本が夫婦仲に問題があることが多いと思う。母親の関心が子どもに集中してしまうのだよね。夫にしてみりゃ、うるせぇ妻が子どもに掛かりっきりでちょうどいいんだろうけど、父親としての責務を完全放棄しているわけで、もっと言うと、夫としての責務も放棄しているわけで、この父親が諸悪の根源といっても過言じゃないだろう。

 外面ばかりよくて、家では夫としても父親としても全く機能していない男。欲求不満で他罰的な母親。こんな2人が夫婦でいる家庭が、子どもにとって安らげる場所であるはずがない。


◆出演者のその後、、、

 フランソワが納屋で首を吊ろうとしていたところへ、父親が助けに来るんだけど、ここでようやく父と息子は心が通じ合う。父親は初めて息子を名前で「フランソワ」と呼び、フランソワもそれまで父親をルピック氏と呼んでいたのを「モン・パパ」と呼ぶ。

 このとき、フランソワが「母親が大嫌い」とパパに意を決して告白すると、父親は「わしがママを好きだと思っているのか?」なんて言う。で、この後、父親とフランソワは同志みたいになるのだよね。

 この父親の言い草を見て、もう呆れて、開いた口が塞がらなかった。この父親は、この後も基本的にはダメだろうと確信したね、このセリフを聞いて。お前、反省してないやろ!! フランソワの将来は、、、、暗い、と思う。

 ジュリアン・デュヴィヴィエ監督作というと、大昔に『舞踏会の手帖』(1937)を見たことがあるけど、ほぼ覚えておらず、何となくイマイチだった記憶しかない。というか、あんましよく分からなかったような、、、いや、あれは別の映画だったかな。とにかく、古いモノクロ映画は、よく分からんものも結構あるので、、、。

 でも本作は、制作されてから90年、ほぼ100年前の映画なんだけれども、今見ても十分面白い。

 にんじんこと、フランソワを演じたロベール・リナンがなかなか可愛い。近所の女の子と結婚式ごっこをするシーンとか、微笑まし過ぎて、彼の家庭で置かれた状況との対比を思うと、何とも胸が痛くなる。フランソワは、ちょっとでも父親に構ってもらえると、それだけで生きる元気が湧くのだが、当の父親がそれを全く分かっていないところが見ていて非常にイラつく。

 ロベール・リナンは、DVDの特典映像での紹介で知ったのだが、その後の第二次大戦中にレジスタンスに参加し、ナチスに殺されたとのこと。子役として結構活躍してデュヴィヴィエ監督作にも数本起用されているようですね。

 にんじんの父親役を演じていたアリ・ボールもナチスに捕らえられた上に拷問され、後に釈放されたものの、その拷問が原因で亡くなったとあった。

 映画の内容もなかなかシビアだが、現実はもっと酷いと知り、何とも言えない気持ちになりました。原作を読んで、また何年か後に見直してみたい。

 

 

 

 

 

 

 

「少女ムシェット」よりラストは悲劇じゃないけれど、、、

 

 

 

 

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コメント (2)
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