河村顕治研究室

健康寿命を延伸するリハビリテーション先端科学研究に取り組む研究室

ゆっくりステップ(ザビックス)

2008-01-26 | 研究・講演
今日は少しおもしろいことがあったので歩行分析の話ではない事を書く。

1年前の日本体力医学会でザビックスのことを初めて知った。
ゲームを利用したエクササイズで、今はやりのWiiFitの先駆けとも言える製品である。

興味があったのでモニターとしてデータを取ってあげた。
この製品は立位でバランスや運動能力の評価や訓練ができる。

一方、数年前から岡大整形外科の先輩の小西先生が、高齢者にステップを踏ませるエクササイズを行っていることを知っていた。
専用のリハ機器を作りたいとしてアドバイスを求められた事があったからだ。
その時には、新規にリハ機器を作るのはとても難しいことなので、既成の製品を利用して工夫すべきだというアドバイスをしていた。

ザビックスを見て、これはまさに小西先生のアイデアにぴったりだと思い、メールでそのことを知らせてあげた。
簡単なお礼のメールが来たきりで、そのことは忘れていた。

今日、研究会で小西先生に会ったら、
「先生のおかげで製品ができて本も出版できた。本当にありがとう。」
と言われ、いったい何のことかいぶかしく思った。

話を聞くと、小西先生は私の情報を元にザビックスの会社に手紙を書いたのだそうだ。
そうすると、ザビックスのシリーズには子どもや成人の利用できるゲームはあったものの、高齢者が利用できるソフトがなくて、渡りに船とばかりにとんとんと商品化の話が進んだのだそうだ。

また、そのソフトの解説本も1万部出版されたそうだ。
http://item.rakuten.co.jp/book/5369321/

まさかそんなことになっていようとは、今日話を聞くまで全く知らなかった。
ちょっとした情報ですごいことになったものだと驚いた。
それでも、滅多にない嬉しい話で、心が躍った。

実は、私もゲームを利用したCKCトレーニングのアイデアを持っており、この話を聞いて任天堂にでも相談してみようかと本気で思い始めた。
自宅に帰って家族にこの話をしたら、小学生の息子は夢中になって
「パパ、絶対にそれやって。パパがWiiのゲームを作ってくれたらおれはそうとう自慢できる。」
と、普段は私の仕事には全く興味がないくせに異常に盛り上がっていた。

やってみようか。

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私と歩行分析 5

2008-01-26 | 私と歩行分析
アメリカの歩行分析を経験して一番驚いたのは、それが医療行為として行われていることであり、紹介された患者一人一人に筋電図を含む歩行分析を行って詳細なレポートを作成し、大体1500ドルくらいの料金を請求していた。医療保険も適応になるとのことだった。

当時の記憶をたどってその頃の様子を記載してみる。具体的に何か記録していたわけでなく、記憶が正確であっても私がいたところだけの特殊事情かも知れないことをお断りしておく。

まず、歩行分析をするに至ったのにはかなり複雑な背景があった。
当時ジョンス・ホプキンス大学の関連病院であるベネットインスティテュートはスポーツ医学と小児病院を兼ねた専門施設で、そこではDr.Chaoの前任の研究者が毎週2回の臨床歩行分析を助手1名とPT1名の補助とで行っていた。それだけでなく、病院として大リーグからの委託研究で、ピッチャーの投球動作の研究を行っていた。それをそのまま我々のラボが引き継いだのである。
アメリカでは研究業績が上がらなければその研究者は首を切られる。そして次の有能な研究者が乗り込んでくるのである。
前任者にしてみればDr.Chaoは自分の地位を奪った憎きライバルである。
Dr.Chaoは業務をスムーズに引き継ぐために、実務を熟知していた助手はそのまま雇い続けるつもりだった。
ところがその助手はボスの首を切ることになったDr.Chaoとは仕事はできないとして辞めてしまった。
それだけならまだしも、パソコンのハードディスクがクラッシュしてそれまでに蓄積されたデータは全てなくなってしまったのである。それが事故なのか、故意なのかは誰にも分からない。
とにかく、週2回の歩行分析は業務として行わなくてはならないし、大リーグからの委託研究は締切までに結果報告を出さなくてはならないが締切はすぐそこに迫っている。
このプロジェクトの責任者になったBruceはすぐにインターネットを利用して世界中の研究者に情報を求めた。驚いたことにすぐに反響があり、続々と貴重なアドバイスが電子メールで送られてきた。
我々はグループで歩行分析ができるようにシステムを調整すると同時に、投球動作の解析も進めなくてはならなかった。
通常の歩行分析の設定から、投球動作の解析ができる設定に変更するには、床反力計をマウントの形状に再設置する必要がありほとんど丸一日かかった。元に戻すのにも同じ時間がかかった。
とにかく当初は険悪な雰囲気が漂い、とにかく毎日が大変だった。

それでもがむしゃらにやっているうちにだんだん落ち着いてきて、投球動作の研究報告も何とか形を整えることができた。

当時ベネットで使われていたのはMotion Analysis社製の3次元動作解析システムとKistler社製の床反力計2枚であった。
それと無線式の8チャンネル筋電計も同時に使っていた。
毎回キャリブレーションをきちんと行い筋電計のチェックを行い、可能な限り周到な事前準備を行った。それでも初期の頃は調整がうまくいかず、予定していた歩行分析をキャンセルせざるを得ないことが何度かあった。

セッティングがうまくいくと予定時間に患者さんがやってきて、反射マーカーと筋電図の電極を貼り付ける。
この仕事はPTの担当者が行った。
被験者となる患者さんは脳性麻痺で足部の手術を予定されている子どもがほとんどだったが、足部の内反の原因となる後脛骨筋の筋電図を取るためには表面筋電図ではだめでファインワイヤー電極を刺す必要があった。
私はアメリカでは医師資格は無効なのでこれはできなかった。
針の刺入をやったのはやはりPTの担当者であった。
彼女に資格としては大丈夫なのかと聞いたら、自分は特殊なトレーニングを受けているので問題ないのだとのことだった。

とにかく彼女の技は見事なもので、ぐずる子どもに
『あなたは今からクリスマスツリーのように飾られるのよ。楽しいでしょー。』
等と声をかけながらすばやく反射マーカーを貼り付けていく。
ファインワイヤー電極の刺入は本人がそれと気づかぬうちにチクッと刺してしまう。
今でも私にはこのような事はできないと思うくらい上手だった。

そんなこんなで何とかデータが取れると、後はトラッキングなどの事後処理をしてレポートにまとめる。
そして、そのレポートとビデオを見ながら毎週Dr.Chaoと担当医がディスカッションして結果を報告書にまとめる。
最後に二人がサインする。
そこまでして全ての過程が終了となる。

とにかく大変な作業だった。

だんだん落ち着いてくると、工学部学生を二人ほどアルバイトで雇い、計測の手伝いとレポートをまとめる作業を任すようになった。
面倒でアルバイトとしてはあまりいい仕事ではなさそうだったが、Tonyという男子学生は文句も言わずに明るく作業を行ってくれた。
彼は工学部を卒業したら医学部に進学したいと言っていたが、その時このアルバイトをしていた経歴とDr.Chaoの推薦状がものを言うのだ。
ある意味冷静な計算があるわけだが、彼は文句なく好青年だった。
将来は整形外科医になって工学の知識を生かして人工関節の開発をやりたいのだと夢を語っていた。

こうして毎週毎週歩行分析を行った。
随分苦労もしたので何とかデータをまとめて論文の1本でも書きたかったが、期間が短かったのと対象が脳性麻痺で結果の個人差があまりにも大きく、ついに研究としては全くものにならなかった。
しかし、この時の経験は得難いものであった。



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