書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

費孝通等著 『中華民族多元一体格局』

2011年02月18日 | 政治
 “中華民族”は在らねばならない、中国は分裂してはならないという党・政府の結論の正当化。はっきりいって成功していない。何回読んでも論理が納得できなかったが、納得できなくて当然なのである。後付けの屁理屈だから。ここにはまともな論理などないのである。その必要もない。プロパガンダなのだから。説得ではなく宣言と命令の言葉である。納得しようがしまいが受け入れ服従することだけを要求している。聴き手が理解しようとすることすら求めていないだろう。
 それにしても、誰も遠慮して表だっては言わないようだが、費孝通は、これ一本で、それまでの自分の赫々たる学問的業績も研究者としての権威もそれまで歩んできた真摯な学究としての生涯も、なにもかも否定してしまった。その曲学阿世の程度は、牙含章郭沫若のそれにも匹敵するであろう。彼は晩節を汚した――と書きかけて、中国では支配者の従順な臣下である自分を最後まで全うできないことを「晩節を汚す」ということを思い出した。意味するところが反対なのだ。

(中央民族学院出版社 北京 1989年7月)

費孝通ほか 『中華民族多元一体格局』

2006年04月12日 | 政治
 中華民族とは複数の民族であり、同時に一民族でもある。
 「Aかつ非Aである」、「Aまたは非A」でない。つまり矛盾律と排中律が通用しない。そのうえ同一律も怪しい。
 通常の論理原則を以てはかろうとするこちらが間違っているのだろうか。阿弥陀如来の在ます極楽浄土の如く、「有る・無い」という相対的な世界ではなくて、その一つ上の次元にある絶対的な「有る」の世界の話なのかもしれない。

(北京 中央民族学院出版社 1989年7月)