天才・早坂文雄

2009-03-25 15:09:27 | 塾あれこれ
昨日は『酔いどれ天使』の(対位法的映画音楽)
について触れました。

翌年の『野良犬』でも同様に、激しい闘いが終わって
倒れた二人に聞こえてくる子供達の明るい歌声。
少し離れた所を通り掛る子供達が小学唱歌「ちょうちょ」
を歌っているのです。

『酔いどれ天使』のカッコウよりも一段と進んだ役割が
この「ちょうちょ」にはあります。
明るく純真な歌声がその場を救い、人々に希望を与えて
くれるのです。

秋山さんは(わが国では初めての・・実験的な手法)と
褒めておられます。
(すこし褒めすぎかなあ?)


早坂文雄は48年の『酔いどれ天使』から黒澤映画の
音楽を担当し、主なものだけでも
49『野良犬』50『羅生門』52『生きる』54『七人の侍』
黄金期の黒澤と共に働き、倒れるまで続きます。

また(早すぎた)晩年には溝口健二の日本を代表する
傑作群53『雨月物語』54『山椒太夫』54『近松物語』
の映画音楽も担当しています。
黒澤映画とは違う、より日本的な音楽です。

黒澤と溝口!すごい仕事ですね。


早坂の仕事から黒澤は『羅生門』のラストを作りあげた
のではないかと思うほど『野良犬』の♪ちょうちょは
後につながります。
『羅生門』の、皆が絶望したなかで赤ん坊が泣く声が
未来に向けた救いを提示してくれます。

ここは何とも見事な演出。

実は大昔に私の父がその映画を見たこともない息子に
一生懸命話をしてくれたことを思い出します。


『野良犬』に戻しましょう。

この映画では♪ちょうちょよりもスゴイ音楽の使いかた
がありました。

秋山さんは当然そこにも触れています。

『流行歌やジャズ・・夥しいコラージュ』
『若い刑事が犯人を追って真夏の街を歩き回るシーンの
 何十曲という通俗曲のコラージュ・・リアリズムの
 映画音楽』

何十曲はオオゲサですが、いまの目から見るとちょうちょ
よりもこの部分が斬新だと私は思います。
秋山さんは軽く触れているだけですが。


『野良犬』は黒澤のネオリアリスモだったのですが
ドキュメンタリタッチの続くこの「追っかけ」が
映画の山かもしれません。

セリフはなく、ただただ三船敏郎が街を歩きます。
そこには戦後の活気ある、あるいはワイザツな街が
生き生きと現れます。
当時の日本を知るフィルムとしても一級でしょう。

そのカットを音楽(流行曲)がつなぎます。
音楽がないと成り立たない部分なのです。
そうしてここにも主人公のあせる気持ちを際だたせる
明るい曲想が並んでいます。

三船が歩くいくつかのカットで一つの街を現し
また別のシーンの何カット、これが延々と続くのですが
一つのシーンは一曲でつないであるので見ているほうは
ダレません。
とても斬新なアイデアですね。

今の私達は戦後の流行曲として懐かしくその時代を
思い浮かべるのですが、当時は流行の先端であったのです。
よくこれだけの曲を映画に当てはめたものですねえ。


次に来る『生きる』の♪命短し、は余りにも有名ですね。
更に『七人の侍』のテーマをいくつかつくる手法など
早坂の仕事は(黒澤も)素晴らしいものです。

(時間ギレです)