しばらく前のことです。
けっこう川幅のあるところでした。
橋に沿って金属の大きなパイプが走っています。
直径は50cm以上ありそうです。
交通量の多い橋でしたが長くても反りは小さい
タイプです。
欄干から覗きこんでもパイプは見えづらい位置に
ついています。
私は橋のたもとにいました。
ふと気付くとそのパイプを猫が歩いています。
川向こうへするすると渡ってゆくのです。
足取りに危なげな処はありません。
パイプは金属ですから爪はたちません。
しかも丸いので歩ける部分はわずかでしょう。
管のツナギ目は鼠返しのようになっています。
落ちれば水です。
泳げても岸はコンクリートの壁です。
彼は何をしたいのか?
橋の下にある鳥の巣を狙っているのでしょうか。
案外、鳥の巣があるものですよね。
橋げたから獲物へたどりつけるのかもしれません。
古いマンガになりますがじゃりんこチエのコテツを
思い出していました。
それも世間を知らぬまだ若い頃の武者修業。
彼は河を渡ろうとしているだけなのではないか?
向こう岸にどんな世界があるか見たくなったのです。
(ネコは好奇心のカタマリ)
水に落ちることなどハナから心配していない。
もし足が滑ればその時のこと。
○
次第に遠ざかる背中に声をかけたくなりましたが
それで落ちては大変。
ワカモノの後ろ姿を見つめていました。
それが・・・
私がふと目を離したのです。十秒くらい。
どこにもいません。
辺りの水面を探しましたが落ちてはいません。
多分渡りきったのだと思います。
夢でもみたのか、というひとときでした。
◎
ネコ頑張れ、と腰折れを作ってみました。
『この道の続く限りを行けばよし
マタタビの空いつの日かまた』
山頭火の句
『まっすぐなみちでさみしい』