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景気がよいときに採用された社員は質が低いのか

2018-01-03 19:16:23 | 読書ノート
大湾秀雄『日本の人事を科学する:因果推論に基づくデータ活用』日本経済新聞出版, 2017.

  人事についての計量経済学。昇進や配属、採用の成否を実証的に把握し、実際の人事に活かそうと説く内容。トピックとして男女の賃金格差、労働時間、採用方法、離職対策、管理職の評価、高齢者雇用が扱われている。「制度的に男女平等となっても、与えられる仕事の難易度や上司とのコミュニケーション機会を経路として男女の昇進機会に差がつく」とか「上司の性格と部下の性格がうまく合うかどうかによって人事評価が変わる」などなど。意外な知見というよりは、これまでたぶんそうだろうと考えられてきたことが、データを使って確かめられているという印象である。

  ソフトカバーかつマンガ風のイラストもあったりして敷居は低そうに見える。とはいえ一般向けというにはけっこう難しい。回帰分析といっても単純な線形回帰だけでなく、プロビットモデルや分位点回帰やらヘックマンの2段階推定やら高度な手法が使用されており、そのあたりの説明がコラム扱いされている。コラムを無視して読むこともできるのだが、ある程度手法を理解していないと本文での議論が上手くいっているのかどうか判断できないだろう。あとがきに「20社の企業の人事担当者に著者が統計を教えてみたが、最後まで残ったのは6社だった」という話が出てくるが、さもありなんである。

  そういうわけで僕の頭では理解できないところもあった。共変量をきちんと統制して人事制度を分析しようとするのはとても難しいということだろう。けれども、細かいことは脇に置いて読んでも興味深い知見は得られる。また、実際の人事に応用できるかどうかはわからないが、回帰分析の応用事例集として読める。ので役には立つ。
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