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他人が知っているということを知る

2008-09-12 08:51:01 | 読書ノート
マイケル・S-Y.チウェ『儀式は何の役に立つか:ゲーム理論のレッスン』安田雪訳, 新曜社, 2003.

「人々の間で協力関係が築かれるためには何が必要か?」について考察した本。著者は、協調行動が生まれるためには、「人々が情報を共有している」だけでなく、「人々が情報を共有していることを知っている」ことが必要だと説く。このレベルの知識を「共通知識」という。で、人々が情報を共有していることを確認させるものが、儀式であり、メディア・イベントである、と。

 ただ、本書の中でこの概念の妥当性が証明されているわけではない。むしろ、この概念を使うことで、さまざまなイベントの意味をよりよく解釈できると主張する本である。付録で、ゲーム理論を使って協調行動について説明しており、理論的裏づけとはなっている。だが、やはり、人間行動の裏づけには生理学的な検証あるいは心理学式の実験が必要であろうという気がする。

 しかし、アイデア自体は面白い。これに従えば、読書やブログで知識が普及しても、協調行動が生まれる可能性は低いだろうと予想できる。読者間で何を読んでいるのかわからないので、「その情報を彼が知っているということを知っていない」状態だからだ。世間の「教養」への期待は、本書でいう共通知識の形成にあると推測できるのだが、現代においてはそれを形成する難しさの方を痛感する。
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