模型づくりで・・・・3――立体≠部材の足し算

2009-10-12 01:45:19 | 構造の考え方
[文言追加 12日 9.12][註記追加 12日 9.20][タイトル副題変更 12日 9.23]

とりあえず、建物模型づくりが終り、敷地に載せて、一案の終了。上掲の写真がそれで、谷側と山側からの写真です。
一応、リアルに見えます。

この模型とともに、台風襲来の前日、甲府盆地に行ってきました。
内容を論議して、12月前に第2案を練ります。模型があると論議が早い。

ところで、今回の計画は、急傾斜のひな壇という敷地の状況から、床下になる部分が大きくなり、平屋なのに二階建てのようになるので、工費の低減のために、鉄骨造を想定しています。

福祉施設は耐火建築にする決まりがあります。
一般には、鉄骨造も可なのですが、既存の部分:模型で寄棟になっている部分は、一部を除き、寄棟屋根までRC造です。

当初は、屋根だけは鉄骨の壁式のRCで考えていたのですが、福祉施設の「耐火」はRCに限る、という補助金を出す東京都の独自の規定で、やむを得ず屋根もRCになった経緯があります。

最初から寄棟屋根の計画だったかどうかは覚えていませんが、鉄骨造なら、切妻だったのかもしれません。鉄骨では、寄棟型の加工が面倒だからです。

このRCの寄棟屋根は、厚さ12cmのRC版で寄棟型をこさえ、それをRCの壁が支えている形をとっています。舟をひっくりかえしたような形です。

RC造で寄棟にしたのには理由があります。
切妻型では逆V型が開くのを防ぐ陸梁などを繁く入れる必要がありますが、寄棟型は、それだけで形状を保てる形であるため、開き止めを繁く入れる必要がなく、その分、屋根の重さを軽くできる、と考えたからです。

RC造は、コンクリートが固まれば板状になりますから、板紙の模型とまったく同じと考えてよいでしょう。
実際、構造計算では、薄いコンクリート版で済み、ダブル配筋(鉄筋を二段設ける)で10cm厚で十分ということでしたが、現場の施工が難しくなるので12cmにした記憶があります。

  屋根の勾配は3.5/10。
  斜面では、固めのコンクリートにしないと、どんどん下に流れてしまいます。
  しかし、固めにすると、10cm厚ではダブルの鉄筋が邪魔をして、コンクリートが流れません。
  そこで厚みを2cm増やしたのです。
  なお、屋根を支える壁と壁の距離が飛ぶ所では、補強のために梁を設けています。


しかし、実は、木造の寄棟も、板紙模型と同じに考えられる、つまり、それ自体で形状を保てるのです。

木造の屋根では、屋根下地として「野地板」を「垂木」に打ち付けます。
木造の二階床でも、普通は「粗床板」を「根太」に打ち付けます。
これらの「野地板」「粗床板」には、かつては無垢の板が使われるのが普通でした。
ところが、現在の建築法規では、「合板」(構造用)が奨められています。
床面では、「無垢板」使用の場合は床面の四隅に「火打ち」を設けることが規定されているのです(「合板」のときは、付けなくてもよい)。
小屋梁面でも同じです。

   註 「火打ち」:入隅に斜め45度にいれる斜材を言います。
      マッチ等のなかった時代に使われた火打鉄(ひうち・がね)の形が
      三角形であったことから、三角型の材を火打ちと呼ぶようになった
      とのことです。「燧」とも書く。(「日本建築辞彙」による)

なぜ「合板」ならよく、「無垢板」ではだめなのでしょうか?
ここに、はしなくも、現在の大方の建築構造の《科学者》の考え方が現われています。

それは、「合板」張りの長方形の「戸板」と、「無垢板」張りの長方形の「戸板」を平行四辺形になるまで力を加えたとき、「無垢板」張りの方が、「合板」張りよりも早く変形する、という《事実》から言われるのです。
この《事実》自体は、誤りではありません。
そして、この「戸板」が、建築構造の《科学者》用語でいう「構面」にあたります(下記参照)。

   註 「とり急ぎ・・・・また『伝統的木造住宅を構成する架構の震動台実験』」
      「『利系の研究』・・・・『伝統的木造住宅を構成する架構の震動台実験』」

問題は、実際の構築物の「長方形の床面」を平行四辺形に歪めるような力は、どういうとき生じるか、ということです。
結論を言えば、そんなことは、「立体」になっていれば、先ず起きないのです。

いま、きわめて単純に「直方体」の架構を考えます。
そのとき、床面は(一階でも二階でもよい)「長方形」です。
この「長方形の床面」が「平行四辺形」に歪むには、①「直方体」全体が「平行四辺柱体」のようになるか、あるいは、
②床面に相当する位置で、架構が捩れていなければなりません。

では、そのような状態は、どんなときに生じるか、想像してみてください。

②のようになるには、雑巾を絞るような力を架構に加えなければなりません。ゆえに先ずあり得ない。

①のような状態にするのも大ごとです。
なぜなら、架構全体を「平行四辺柱体」にするのは容易なことではないからです。
これは、日曜大工で小さな箱や小屋をつくっても「実感」できるし、あるいは、組立てた「直方体の段ボール箱」を「平行四辺柱体」に歪めるべく押してみれば、たちどころに分ります。そんなことは、一体化した「立体」においては、先ず起きないのです。

つまり、架構に組み込まれた床面では、「無垢板」であろうが、「合板」であろうが、「構面」単体に歪み:変形を起こすような現象は、簡単には生じ得ない、ということになります(大地震であろうとも)。

すなわち、「架構=立体物の強さは、単なる部分:部材の強さの足し算ではない」ということにほかなりません。

つまり、「構面」なるものと「非・構面」で構築物が成り立っている、という考え方は、机上の計算のための、きわめてご都合主義の「発想」なのです。
これについては、上記の「利系の研究」で、「構面」の実験を「構体」つまり「立体」で行うという実験者の自己矛盾を指摘しています。
そして、この「考え方」は、人間社会も「役に立つ人間」と「役に立たない人間」とから成り立っているという考え方に直結します。
だからこそ、自分たちの《研究》の結果をもって、他を律しようなどという「おこがましい発想」に至るのです。[文言追加 12日 9.12]

これは、「無垢板」張りの寄棟屋根はもちろん、切妻屋根でも同じ、架構に組み込まれたら、存分に「立体」効果を発揮しているのです。
実際、棟上げをして野地板、粗床板が張られるとともに、架構全体が強固になってゆくことは、現場で体で確認できます。

いまの多くの建築関係の《科学者》は、いわば、「木を見て森を見ず」、全体が見えていないのだ、と言えるでしょう。あるいは、森とは、単なる木の寄せ集めと考えているのかもしれません。

   註 《科学者》諸氏よ、
      机上で「計算」にいそしむ前に、建て方中の建物の上に登り、
      棟上げまでの状況の変化を、逐一、体で味わってください。
      そしてまた、できれば、日曜大工でいいから、
      自ら実物をつくってみてください(「模型」でも可)。
      そして、「現在の理論」と「実際」の齟齬を体感してください。

ついでに「おかしな」ボルトの話を。
小屋組で、水平な「梁」を「桁」に「蟻掛け」で架けるとき(「京呂組」できわめて多く使われる仕口です)、「梁」が「桁」からはずれやすい、ということから、一般に「桁」~「梁」を「羽子板ボルト」で結ぶことが法規で求められます。

これも「構面」的発想:部分だけ見る考え方に起因した「対策」なのです。

いったい、「梁」が「桁」からはずれる、というのはどんなときでしょうか。
それは、「梁」の架かっている「桁」と「桁」との間が開いたとき、距離が伸びたときです。
では、「桁」と「桁」の間が開く、というのはどんなときに起きるでしょうか。
1本の「梁」のかかっている面だけとりだせば、そういう場面は簡単に起こすことができます。つまり「構面」単体では簡単に起き得ます。

しかし、実際は、「架構」に組み込まれていますから、そういうことは簡単には起きないのです。
組み上がった段ボール箱の、対面する側面間を簡単に広げることができますか?

もっとも、いわゆる「在来工法」の場合には、これは危険な仕口になるでしょう。なぜなら、架構を「一体化する」ことを考えない工法、「立体」を考えない工法、それが「在来工法」だからです。
つまり、「火打ち」や「羽子板ボルト」は、いわゆる「在来工法」においてのみ、「必需品」なのです。

   註 一度ヒマをみて、「構造用教材」に載っている「在来工法」の軸組模型と、
      「古井家」「高木家」の軸組模型をつくってみようと考えています。
                             [註記追加 12日 9.20]

以上が、「模型が強ければ、実物も強い」と言える理由の説明です。
またまた長くなってしまったので、こういった点に付いての 遠藤 新の言葉の紹介は先送りします。

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