「耐震診断」・・・・信頼できるのか?

2007-10-16 02:31:50 | 地震への対し方:対震

[字句訂正追加:10月16日10.14AM]

 「耐震診断」というのが推奨されている。各種団体が公開している「方法」には、一般向けから専門家向けまで、簡易法から精算法まで、各種ある。
 たとえば、「日本建築士事務所協会連合会」の「あなたの家は大丈夫?木造住宅の簡易耐震診断」。その診断は6個の項目からなる。
 A:基礎がRCの布基礎か、無筋の布基礎か、ひび割れのある布基礎か、
   その他の基礎か。地盤は良いか、普通か、悪いか。
 B:建物の形が、平面的に整形か否か、立面が不整形か否か。
 C:壁の配置が釣り合いが良いか、外壁一面に壁が1/5未満か否か。
   外壁一面に壁がないか否か。
 D:壁に筋かいがあるか否か。
 E:壁の量、多いか少ないかを5段階で判断。
 F:建物の老築度:健全か、老朽化しているか、腐朽や虫害はあるか。

 各項目に評点があり、総合評点を計算する。1.5以上~0.7未満の幅があり、1.5以上が安全、1.0以上1.5未満は一応安全、0.7以上1.0未満はやや危険、0.7未満は倒壊又は大破壊の危険あり、なのだそうである。

 この「診断法」で私たちが設計し使っている木造の事務所兼住居の建物を診断してみた。
 この建物は東西10.5間、南北4間の切妻平屋建て、小屋裏付。
〇屋根はアスファルトシングル葺き。
〇基礎は、敷地が斜面のため、
  独立基礎(750mm角の底盤に300mm径のヒューム管を立て
  コンクリート充填)をほぼ@1間に設け、土台を渡す方式。
〇4寸角の柱がほぼ@1間。
  小屋は、軒桁:8寸×4寸、梁:7寸×4寸@1間の出桁で軒の出約5尺。
〇内法には、外周および間仕切部に4寸角の差鴨居、
  また外周の出入口以外、間仕切壁部には、腰に差物(窓では敷居になる)。
〇各部とも筋かいは無し。壁は真壁が基本(ラスボード下地、ラスカット下地)。
〇東妻面の壁は4間幅の内3間は壁、西面は全面壁。 
  南面の壁は10.5間の内2間、北面は1.5間だけが壁で、以外は開口がある。
  つまり、壁部分よりも開口部が圧倒的に多い建物。

 当然ながら、「診断」の結果、わが建物の評点は、見事に0.7未満の0.378。「倒壊又は大破壊の危険があります、是非専門家と補強について相談してください」との判定。
 設計者の私たちの耐震に対する能力も見事に「無能」と判定されたことになる。

 なお、この建物は、確認申請なし、工事届だけ。都市計画無指定区域だからである。
 しかし、指定区域であっても、壁量計算だけで同様の建物の確認の申請をしたはずだ。 

 面白半分に、今から180年ほど前につくられた奈良・今井町の高木家(上掲の図)の「診断」を試みた。この建物は、重要文化財指定後、解体修理が行われているが、架構にはとりたてて損傷は見られなかった(当初材のまま)。
 今井町は奈良県でも南部にあり、和歌山に近い。だから、「南海地震」などの大地震に、何度も遭遇している。
 「診断」してみると、評点は同じく0.378。つまり、このあたりを揺らした何度かの大地震で、とっくの昔に倒壊または大破壊していてよいはずの建物!

 「日本建築防災協会」の簡易診断法「わが家の耐震診断」というのには、「建設が1981年以前かどうか」という項目もある。1981年とは、いわゆる「新耐震基準」が施行された年。
 これで「診断」すると、「わが家」は「専門家に診てもらいましょう」、「高木家」は「心配ですから是非専門家に診てもらいましょう」となる。

 実は、茨城県下には、差鴨居を多用し、一面ないしは二面に縁をまわした、つまり一面又は二面の壁量が1/5以下の、農家住宅が多数ある。布基礎ではなく、礎石・足固め方式の建物もざら。基準法違反の建物だらけ。
 だから、これを「診断」すると皆「大補強を要す」という「診断結果」になり、判定をする人たちを「悩まして」いる。なぜなら、どう見たって最近の法令遵守の建物よりも頑丈で、安全、健全だからである。
 つまり、こういう建物に会うと、法令と事実がまったく合致しない例が多いことをあらためて知ることになる。おそらく、各地域でも同様に思われる方が多いはずだ。なぜ、この建て方がダメなのだ!と。
 そして当然、各地に残る重要文化財建造物も、皆同じ憂き目にあう。

 これらの「診断法」は、要するに、「基準法の規定遵守=耐震」という《考え》に凝り固まっていて、真実を見る目を失ってしまった人たちの独断・偏見によるもの、scientific、reasonableな判断では全くない、と断言してよいだろう。
 最大の「笑点」は、1981年以前かどうか、という《判断基準》。
 考えを詰めてゆくと、《専門家》たちが、「旧基準」が設定されていたことを、ものすごく気にしているということ。《新基準》の《正当性》を普及したいという発想から盛んに《新基準》を吹聴するのだろうが、かえって逆。「足元」がよく見える。

 こういう安易な(「簡易」ではない)診断法による《判断》が横行すると、耐震補強屋さん(専門家を含む)が儲かる一方で、ますます日本の建物の質の劣化が激しくなるだけだ。

 耐震専門家の諸氏よ!もっともっと日本の建築技術・工法を、その歴史から学んでくれ。そうしてから、「提案」をするのが、道理ではないか!
 いわゆる「先進国」の建築の専門家の中で、自国の建築についての知見を最も欠くのは、明治以来、日本の専門家だけだ、という事実を知ってほしい。

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