続・「煉瓦の活用」・・・・RC造との併用の試み-2

2007-10-03 00:10:53 | 設計法

 先回紹介した建物の、煉瓦の「標準割付図」と施工中の写真。「標準割付図」は、設計図に添付したもので、この図によって施工した。

 なお、前回とも、図は「住宅建築」1989年11月号から転載、写真は同誌ならびに「竣工写真」より。

 この設計の最大の難点は、柱のコンクリート打設。煉瓦とコンクリートがよく噛み合い接続部に亀裂が生じないこと、形枠が二面不要になる、ことを想定した設計だったのだが、形枠に接する箇所で、煉瓦積の凹凸部にジャンカがかなり発生した(中央部ではよく充填されるが、どうしても縁の部分:型枠に接する部分で問題が生じる)。
 机上でも心配したが、その予想を上回って発生した。桟木一本分でも煉瓦面より外側に柱型を設ければ、問題は生じなかったと思われる。ただ、よくコンクリートがまわった箇所は、煉瓦との噛み合いも綺麗に仕上がっている。
 

 煉瓦積は現在専門職がいない(溶鉱炉などの耐火煉瓦積専門の方はいる)。この工事で実際に積んでいただいたのは、ふだんはタイル職と左官職の方。

   註 煉瓦積職人の「変遷」については、「会津喜多方の煉瓦蔵発掘」
     「喜多方の煉瓦蔵」「住宅建築1989.11」に解説がある。
 
 実際に煉瓦を積んでみると分るが、垂直の定規があっても、定規から離れたところでは、煉瓦は積んでいる自分の向う側、あるいは自分の側に、微妙に倒れ気味になる。目線と煉瓦壁面との関係だろう(垂直と思う線が、少し倒れるのである)。
 その点、左官職の方は、広大な面を日ごろ塗っているからだろう、そのあたりを感覚的に調整できるようだ(タイルは下地にならって張る。つまり下地次第。下地を自分でつくる人と、下地は左官職に委ねる人とがいるようだ)。
 もう一つ大きな違いは、タイル職は目地の通りを気にすること。煉瓦はタイルと違い寸法にばらつきがある。だからタイルのようには行かない。左官職は、時折り煉瓦から離れて遠くから眺め、全体の様子を点検して調整する。目地の通りが多少悪くても、全体が落ち着いていればよし、とする。これも日ごろの仕事上の習性なのだろう。そしてその方がよい仕上りになる。「感覚」が大事なのだ。煉瓦積には、その仕上りの良し悪しに、積む人の感性が関わる余地が大幅に残されているのである。

 「煉瓦要説」という明治に書かれた煉瓦造についての「教科書」がある。明治35年(1902年)、日本煉瓦製造㏍の二代社長諸井恒平氏が書かれた書で、煉瓦の歴史から製造法、煉瓦による構築法など煉瓦にかかわる全般について触れていて、現在でもこれを越える書はないと言ってよい。
 その書によれば、化粧積で、一日あたり230本程度が一人で積める量だとあるが、実際に調べてみると、それは妥当な数量だった。この仕事で煉瓦を積んでくれた方が、慣れてくると一日400本積めるが、翌日手首の関節が痛み仕事にならなかった、と話していたから、おそらく諸井氏の数字は、人力の限界を知った上でのデータ:経験値と思われる(この数量で積算ができる)。

   註 煉瓦1枚積で、仕上り面1㎡あたり約140本必要。

 なお、目地にセメントモルタルを使った関係で、白化現象が生じている。これを嫌う人がいるが、日時が経てば消える。

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